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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第6章 ファンタジー・オブ・ザ・デッド
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6-14 教育制度のこと

 さっそく俺達は連れ立って学校へと向かう。歩くには少し距離がある場所だから馬車を用意してもらった。

 ターナが同行しなければ馬車なんかには乗れなかっただろうから、それは感謝だな。


「えへへー。やっぱりターナさんは親切ですね! コータだったら自分で歩けって悪魔みたいなこと言うのに! 自分では歩かないからって、ひどいですよね!」


 そこ。うるさいぞ。


 でもどうして同行を? リゼも喜びつつも疑問が顔に出ていたようで、ターナは少し笑ってから説明してくれた。


「あの日以来行けてなかったからね。置いてきた物をいくつか、取りに行かなきゃいけないって思ってたところさ。それに、ここんところ仕事ばかりで退屈してたからね。ちょっとは楽しそうなことがしたい」


 ターナは今二十歳。あの日とは当然、ゾンビと木のお化けが暴れて魔法使いの名門の立場が失墜したあの夜のことだけど、その時点では学校の在校生だった。




 この国の学校の制度は全土でだいたい一致している。都市内の自治権が強い社会だから、都市によって微妙に差異があったりするが、基本的には同じ。


 すなわち、十六歳になれば入学できる。

 それはリゼから魔法学校のことについて聞いた時に知った。そしてそれ以上の年齢の者でも、入学は可能だ。入試に受かればの話だが。



 この国にいくつかある魔法学校を含めて、多くの学校では入学してから四年間、そこに在籍して勉強することになる。それが標準的な教育制度。つまり標準教育。


 二十歳のターナはつまり、標準教育課程の最終学年として学校に在籍していた。同い年のレガルテも同様である。



 その上も当然ある。高等教育と呼ばれるそれは、標準教育課程を修めた者が受けることができる高度な、あるいは専門的な教育である。高等教育機関の在籍期間は二年または四年だ。

 俺の世界で言う、大学と大学院ってところか。



 国家の定めている教育制度は、この標準教育と高等教育のふたつである。

 これとは異なる教育制度がある世界に生きてきた俺からすれば、教育を受けるのが十六歳からっていうのは遅くないかと思う。俺の世界では六歳からだ。



 そこはまあ、この世界の学校っていうのは一部の富裕層かものすごく優秀な人間しか通えない施設であり、だから学校に通うに足りる人材かどうかを見極めるのに十六歳って年齢が適してるとか、そんなことなんだろう。

 リゼみたいないつまで経っても無能ですみたいな奴は弾くのが、この世界のいち側面としてあるみたいだし。


「標準教育の前の、初等教育っていう制度もあるよ」

「あるのか」


 ターナがあっさりとその存在を認めてしまった。そうだよな。あってもいいよな。



 魔法使いなどの名門や権力者や大商人などの資産家の子息は、当然ながら将来家督を継ぐことを期待されて早期教育の必要がある。

 人の上に立つ人間は、早い内から勉強をしてその立場にふさわしい能力や知識を得ていた方が、都合がいいに決まっているからな。

 ところがそういう家っていうのは当然金持ちだから、家に知識人を招いて子息にマンツーマンで教育をする方法を取るのがほとんど。


 子供ひとりひとりに合わせた教育方針の方が、学校のクラスで集められた多くの子供の前で教師が教えるってやり方よりも効果的だもんな。それは俺の世界でもこの世界でも同じだ。


 だから早期教育を受けるのは、みんなお金持ちの子。

 そこから成長していき、専門性が高いことを学んでいくようになってから、数が少ないがゆえに各家庭に呼ばれるような暇がない人材によってまとめて教育が行われるというわけだ。


 標準教育といって侮ることなかれ。この世界でそれを受けることができる若者は、ほんのひと摘み。一部の金持ちの特権だ。



 じゃあ俺の世界でいう、小学校みたいな初等教育はどんな需要があるのか。


 実は金のない奴でも通える学校という点で、仕組みは俺の世界の小学校とちょっと似ている。教育を受けるのに必要な金を学校の運営母体が持つという点で。


 国家や都市がそんなことをする理由は、ごく少数の優秀な人材を青田買いするため。つまり支配者層の手下として使える人間を、早期に見つけるためだ。



 この街の場合は特にわかりやすい。ふたつの家がそれぞれ持っている学校。つまり、自分達の陣営に優秀な人間を取り込むのが目的。


 そのために庶民の中から芽が出そうな子供を探し出し、その子の親に上流階級への仲間入りをちらつかせて説得する事で学校に通わせる。そしてそれぞれの家の思想に染まった大人が出来上がって、醜い争いに参加するようになる。

 庶民から魔法使いの才能がある子供が生まれたとなれば、両家の間でその奪い合いすら起こる。


 地獄だな。そんな体制、無くなって正解だった。小学生の頃から将来が決まっていて、しかもそれは権力争いの当事者になる事っていうのはちょっと嫌すぎた。


 とはいえそんな構造のために、今回は謎解きのヒントが見つかるかもしれないわけだけど。




「お、見えてきたぞ。ようこそ私立チェバリア学園へ!」


 馬車の窓から、塀に囲まれた立派な建物が見える。チェバルの屋敷にも劣らない大きさの建物と広い敷地。

 チェバルの権力の根幹である魔法に関する学問だけでなく、魔法使い以外の人間が知識を学ぶことができる総合学校。

 学校の性質上生徒の数はそれほど多くはないのだろうけど、受けさせる教育の質は良いものにしたいという気概は感じられる。



「やあ。久しぶりってほどでもないか。元気だったかい?」


 学校の中を歩きながら、ターナはすれ違う生徒や教員に声をかける。


 この学校の在学生だったから知り合いも多いのだろう。とはいえその反応は一様に薄いというか、よそよそしかった。

 元は親しい友人とかだったろうに、辛い話だ。


「まあ仕方ないだろうさ。わたしはもうこの学校の生徒じゃない。退学したからね」


 なんでもない事のように話すターナ。

 一切何も感じてないってわけじゃないだろうに、気丈に振る舞ってるように見える。自分で選んだ道だから。


「そうなんですか。ターナさんも退学に……」

「『も』って? 他に誰か退学になった知り合いでも?」

「い、いえ。なんでもないです」


 リゼは自分のことだとは言えるはずもなく、慌ててごまかした。



 自分も学校を退学になった身としてターナに重ね合わせるみたいな言い方してたが、全然違うからな。

 ターナの退学は、これから城主と新しい街を作っていくために学校に行く暇はないとかで退学したって事情がある。


 決して、無能なのに名門のお情けで学校に入れてもらった挙げ句、やっぱり無能だから三日で退学になったリゼと比べていいものじゃないからな。

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