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第86話 モブでもモテるらしい

今回は珍しくもなくあとがきがあります。

「どうぞ、二人とも上がって」


 丁寧にスリッパを並べて快人が言う。普段俺が来たときはそんなことはしないけれど、ゆうたに気を遣っているのだろう。紳士だ。ステキ。

 さて、俺はどうしたものか。このままスリッパを履けばお泊まりコースはほぼ確定。快人の家に泊まる経験はこれまで無く、ただでさえどう扱うべきか悩ましい光もいるとなれば、今は引くのが正しい戦略だ。戦略的撤退というやつだ。逃げるは恥だが役に立つものだ。

 しかし、ここで帰ると言い出せばゆうた……はともかく快人は止めるだろう。止めて泊めようとするだろう。何故この雨の中快人が外にいたのかも、片手に提げられた食材の覗くエコバッグを見れば察しがつく。


「お邪魔しますです」

「……お邪魔します」


 お膳立てが十分なことに内心嘆息しつつ、ゆうたに続いてスリッパを履いた。素直にご厚意は嬉しいし。


「光、紬、帰ったよ。鋼達も一緒だ」

「紬?」


 もしや、と思いつつ快人に従いリビングに入ると、キッチンに並ぶ綾瀬光、そして古藤紬が見えた。


「おーおー、よく来たね、くぬぎっち! それと幽ちゃん! 相変わらずちっこくて可愛いのぅ!」

「い、いらっしゃいませ、鋼さん、幽ちゃん」


 快人の声に反応し、テキパキと食材を置くなり、火を弱めるなり、手を洗って拭くなりをして、二人が出てくる。どちらも制服の上にエプロンを着るという通い妻スタイルだ。


「はう……」


 たじっと、身を竦めるゆうた。人見知りセンサーが古藤に反応したらしい、が。


「うわーっ! やっぱり可愛い可愛い!」


 がばっと飛び付くように抱きつき頬ずりをする古藤。ああ、これ人見知りとかじゃなく単純に苦手なんだ。そういや、シャトルランの後も古藤にはもみくちゃにされていたし。

 あの時はあの桐生鏡花でさえも目の色変わっていたし……こいつ、同性にはモテるのか?


「幽ちゃん、その着てるのって」

「この男のジャージです」

「えぇーっ!?」


 ゆうたに抱きついていた古藤が悲鳴を上げて離れた。そんなに嫌か。


「ど、どうりでかび臭いと思った……もうお嫁に行けない……」


 そんなに嫌か!? 泣くよ!?


「いや、でも待てよ? 古藤が抱きつき頬ずりをしたジャージともなれば、売り出せばそれなりの額になるんじゃ……」

「鋼、考えが漏れてるぞ」

「はっ!?」

「くぬぎっち、それは看過できない案件だよ。このジャージは私がいただくっ!」

「いや、古藤に需要はないだろ」

「需要という問題じゃないような……」


 苦笑する光のツッコミを聞き流し、睨み合う俺と古藤。視界の端でゆうたが解放されたことに安堵していた。


「幽ちゃんの地肌に触れたこのジャージは私のものだっ!」

「お前、変態かよ……」

「くぬぎっちに引かれた!? 人の抱きついたジャージがどうとか言っていた男が!?」


 俺だって引くときは引くぞ。


「第一変態なんて女の子に言う言葉じゃないから!」

「変態に男も女もあるか! 男女平等だぞ!」

「それが人の温もりの残るジャージを売り払おうとしているやつの言うことか!」

「それも男女平等! 俺だって俺のジャージ売ろうってんだからリスクは平等! はい論破ー!」


 まぁ、俺の要素なんてものはマイナス要素だから平等というのは苦しいかもしれないが、いつだって口論で一番重要なのは勢いって言うからな。実際、古藤は虚を突かれたように目を丸くしていた。古藤にしては引くのが早い気もするが。


「まぁ、そっか。そういう選択肢もあるもんね」

「選択肢?」

「ストレートにくぬぎっちのジャージを女子に売りつけるっていう」

「はぁ? てめぇ何言ってんだ古藤コノヤロウ」


 馬鹿は休み休みでも言うなというやつだ。何が悲しくて俺のジャージを売りつけられればならないのだと、俺が女子高生だったとしても思うだろうさ。


「くぬぎっちこそ、自覚しなよー。意外とくぬぎっちが気になるっ! って子も多いんだよ。うちのクラスにも何人か知ってる子いるし」

「え……?」


 想定外の返しに思わず固まる俺。プラスゆうた&光コンビ。そして快人はやれやれと苦笑していた。


「鋼さん、人気者なんですね……」

「世も末です」

「おい、どういう意味だ1年コンビ」


 意外そうな二人にそう返した俺だが、実際半信半疑というものだ。


「そもそも、俺がそれなりにモテるって証拠はあんのか証拠は!」

「鋼、なんかドラマの犯人みたいになってるぞ」

「だまらっしゃい! そもそもだ! 俺は今回の告白ブームの流れの中でも通常運転の学園生活を送った男だぞ!」


 椚木鋼の精神に50のダメージ! 後輩達の前でモテないアピールは意外と傷つくと僕は知った。


「椚木さんゼロだったですか……意外というか意外じゃないというか……」


 哀れむように見てくるゆうた。さり気なく兄からも降格させられてるし。


「まあくぬぎっちは、ブームに後押しされても踏み出せないナイーブな女子ばかりに人気があるからね。不思議なことじゃないよ」

「そんなコアな需要が!?」

「むしろくぬぎっちがいつも通りだったおかげで誰からも抜け駆けされなかったと安堵してるまであるっ!」

「悪循環ってこういうことを言うんだな……」


 突然の意外な情報に内心げんなりする。


「鋼さん、モテるんですね」

「告白はゼロですが」


 そんなに告白されるのが偉いんか!? 偉い……んでしょうね。人の価値は人の評価が決めることだから。


「どう? くぬぎっち、悔しい? 悔しい~?」

「ぐぬぬ……グギギ……」

「鋼、顔やばいぞ顔」

「しかし、そんなくぬぎっちに朗報です! なんとっ! ここに一枚の手紙がありますっ!」


 おおっと声を上げる快人とゆうた。古藤が高らかに掲げたのは一枚の封筒だった。


「この封筒には、くぬぎっちに宛てた手紙が入っております!」

「ま、またまたぁ」

「女子からですっ!」


 マジか。おいおい、マジか。

 

「ええっ!?」

「おおっ! まさかの光ちゃんからの反応っ! そんなに意外?」

「ち、違うよ紬ちゃんっ! ええと、私はあの、ちょっと意外で」

「結局意外なんじゃねーか! 先輩だぞ、俺! 先輩だぁ!」

「ゼロですけど」

「回数は関係ねぇだろーが、このチビぃ!」

「ウギャァアア! ゆうの脳みそが! 脳みそがぁ!」


 後輩の頭に華麗なアイアンクローを決める先輩(告白され率0%)。そもそも告白をされたら偉いという考えは間違っている。俺内定○社~♪ 並に敵を増やす行為だということを自覚すべきだと俺は思いますけどね!


「くぬぎっち、この中身見たい? 見たいでしょ~?」

「そ、そりゃあ」

「鋼もそういうの気になるんだ」

「たりめぇだろ! 俺もお前と同じ男子高校生だぞ! サレとかシタとか興味津々なの! もしも、その中身が古藤の言うとおりのブツだった場合! 俺も初めて告白を……」


 初めて、ではない。

 それが恋愛的か、そうでないか明らかでないものを除いても一度、されている。


「初めて?」


 途中で止まった俺の言葉の続きを促すようにそう発したのはあろうことか光だった。

 彼女は俺に告白したことを覚えていないだろう。覚えていない筈だ。もしも覚えていれば、それこそべらぼうに責めてくるだろうから。

 しかし、ただ口を閉ざした俺を訝しんで、というだけじゃないような感覚を抱かせた。


「と、とにかく古藤! その手紙を見せてもらおうじゃあないか!」

「いいだろう」

「なんだよ、いいだろうって」


 古藤から封筒を受け取り、恐る恐る一通の手紙を抜き出す。

 ごくりと、生唾を飲む音が複数聞こえた。

 ゆっくりと、手紙を開き目に入った文字は……っ!


「な、なんだとォォォォォーッ!?」


ーーウソ


 その無情に大きく書かれた文字に俺は叫ばずにはいられなかった!

 吐き気を催す邪悪とはッ! 何も知らぬ男子校生を騙し笑いものにすることだ! 罰ゲームだの嘘の告白なんぞで純情を弄ぶことだ……! モテ系美少女が! 非モテ男子を! てめーだけの都合でッ!


「なんちゃって」


 ペロッと舌を出しウインクする古藤。かわいい(客観視)。


「いやぁ、いつかチャンスがと思って手紙を仕込んでいた甲斐があったよ~。ナイスリアクション、くぬぎっち!」

「仕込んだって内容ペラッペラじゃねーか! せめて少しはラブレターのていをとるとか、努力を見せろっ!」

「面倒くさくなっちゃって」

「面倒くさくなるならこんなしょうもない嘘を吐くのも面倒くさがってくれませんかねぇ!?」

「くぬぎっちならどんな内容でもいいリアクションしてくれると信頼してのことだよっ。ウソなんて直接的な言葉じゃなくても……そうだなぁ、ダルマとか書いててもリアクションしてくれただろうし」


 いや、ラブレターと思って開いてダルマなんて書いてあったら意味分からなすぎてリアクション取る前に倒れると思う。そして起き上がる、ダルマだけに……って喧しいわっ! きっちりリアクションしてんじゃねぇか!

 にまにまとしたり顔を浮かべる古藤を前にただただ肩を落とすしかない。何を言っても彼女の手のひらの上で転がされるのは目に見えていた。

 こうして俺の先輩としての威厳は完全に砕け散ったのだった。いや、最初から無かったかもしれないが。

いつもご愛読ありがとうございます。

偶々最新話から読んだ方いれば、ほら、一話から読むんだよすぐに。


なんやかんやで告知から時間が経っております本作の書籍化ですが、

来たる5/31(金)の発売となりました。赤口。関係ねぇよ!

多分本書を買って頂くと良い日になります。


表紙や挿絵を描いてくださるイラストレーター様はU35様でございます。

とても可愛らしい画を描かれる方です。なろう界の日陰者(自称)であるぼくの作品を描いてくれるなんて、いい人だぁ……いい人に違いない(確信)


というわけで、カバー画とかキャラデザとかいただいて、出してもいいよと言ってくれているのでその内出せればと思います。

画像の上げ方が分からないの、ボク。だから勉強後に出します。多分活動報告に。


というわけで、引き続き更新してまいりますので、何卒よろしくお願いいたします!


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