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第81話 放課後の一時

サブタイうかばない問題

ーーお前はもう少し残される者の気持ちを考えるべきだ、コウ。


 ブラッドは俺が帰る直前、言葉を選ぶようにそう言った。似合わない、泣きそうな顔をしながら。


 別れを告げるか、突然去るか。普通に考えれば前者がいいのだろう。

 例えば、子供の頃親の転勤が決まって引っ越すことになった際、大きくなったら戻ってくるだの迎えに行くだの、そういった約束をして果たすなんてのはベタでロマンチックな展開だ。

 しかし、大きくなって迎えに来れる保証は無い。互いの人生を歩む中で、別の誰かと恋仲になることもあるだろう。死別し、いや死別せずとも永遠に再会が果たされないなんてこともある。再会の約束、希望ある別れなんてのは先が約束されたフィクションの中でこそ、だ。


 今回、俺は他の地方とか海外とかそれ以上、別の世界なんて所に飛ぶことになる。一度は戻ってきたが次は分からない。時間軸もこの世界とは同期していない。永遠の離別となる可能性の方が高い。それなのに、別れなんてわざわざ告げて、何を言えばいいのだろうか。

 忘れてくれ? 運が良ければまた会おう? 馬鹿馬鹿しい。そんなことを言えば余計忘れづらくなりそうなものだ。特に快人達、俺と親しくしてくれているあいつらなら。


 それなら、突然消えてそのままの方が諦めも付きそうなものだ。もし思い出すことがあっても命日、いや、失踪日に偲ぶ程度のものに収まるだろう。

 ……と思いたいが。


「以上でホームルームを終わる。日直、号令」


 ブラッドと話をした翌日、考えている内に授業が終わっていた。快人達と少し話もしたが昼休みも独りになりたくて彼らを避けていたし、結果残り少ない貴重な時間を無駄にしてしまったことになる。

 担任が出て行き、テスト前の緊張感と、例のカップルブームに色めいた雰囲気が入り交じり始める中、俺はどうにも気分が乗らず早々に鞄に荷物を詰め込むと席から立ち上がった。


「鋼」

「ん……どした?」

「いや、なんか今日元気無い感じだったから」


 どうやら快人を心配させていたらしい。主人公様に心配させるとはいよいよモブ失格だ。何回失格になればいいのか……いやいや、そうあろうと思い続けることがそうであることの最も重要な素養だという考え方もある。買わなければ当たらないのだ。買おうと思い、買った時点でそれはもう即ち億万長者みたいなものだ。


「そんなことない。元気だ元気」

「そうかな、昼休みだってすぐにどこか行っちゃったし」

「まー、うん」


 考え事を優先するあまり、快人達や後輩連中に捕まる前に学校の隅に逃げたのも心配を煽っていたようだ。迷惑を掛けまいとした行動だったのに……いや、俺が逃げたかっただけか。


「……ま、いいや。鋼、これ」

「ん、弁当?」

「光から。今日も作ってきたのにいなくなるからっていじけてたよ。無駄にしちゃうのも勿体ないし、気が向いたら晩飯にでもしてよ。弁当箱はその内返してくれればいいからって」

「……悪い、ありがとう」


 食べ物にも、光にも罪は無い。恋人はカップラーメン、愛人はもやしな独り暮らしの俺には非常に有り難い話だ。


「礼なら光に言ってやってよ。きっと喜ぶから」

「今度会ったら伝えとくよ」

「今度なんて言わずさ」


 快人は肩越しに親指で背後を指さした。快人の机に集まるように、にこにこと笑顔を浮かべている古藤と少し気恥ずかしげにしている鏡花がいた。


「これからボウリングでも行かないかって話してるんだ。光達も合流する。鋼も来るだろ?」

「なんとまあ……テスト前だぞ?」

「昨日、紬抜きで昼飯食べてたのでちょっと機嫌損ねちゃってさ」


 ああ、なるほど。これは古藤のための会らしい。

 とはいえ、それもあくまで口実で、古藤も、快人も、果ては光達も息抜きがしたいのだろう。息抜いてばかりの奴もいるが。

 鏡花や光のような優等生は勉強的な自己管理だって当然行っているだろうし。


「一応蓮華さんにも声掛けてるよ。仲良いんだろ?」

「いや、仲良いってのとはまた……」


 仲が悪いというのは最早苦しい嘘にしかならない気がして苦笑し誤魔化す。しかし、蓮華もとは……まあ、あいつが粛々とテスト対策をしているのも想像がつかないし、時間は工面出来るのだろう。

 色々と気になるメンバーなのは間違いない。勉強会には参加できなかったし、今回は……と昨日までなら思ったのだろうけど。


「悪いけど、俺はパス」

「えっ」


 断られたことが意外かのように快人が目を丸くする。勉強会ならまだしも、俺が快人の遊びの誘いを断ることはまず無い。ましてやヒロインが参加するならこちらから嗅ぎ付けて参加する程だ。


「ちょっと担任に用事があるんだ」

「それくらいなら待つけど」

「いやぁ、ちっとばかし込み入った話になりそうなんだ」


 だからごめん、と断りを入れ、教室を出た。快人と、後ろの彼女達に笑いかけたつもりだったが、彼らの表情を見るに上手く笑えていなかったかもしれない。

 せめて、彼らが俺のことなど気にせずに気ままに遊んでくれればいいのだが。


 吐き出した息が少し重たい。

 後ろ髪を引かれる思いというのはこういうことなのだろうか、職員室までの距離が異様に長く感じた。

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