第71話 ロリが足りない
更新おそく、ご迷惑をおかけします。
綾瀬光に何をしたのか、そして俺に何が起きたのか、それらのことに蓮華はある種の確信を抱いてるようだった。
思えばヒントはいくらでもあった。まず俺が光の記憶を奪ったのは俺に関する部分のみ。他の記憶は残っているのだから俺に関わる会話があれば違和感は生まれることは想定できた。
ただ、これに関してはリスクは少ないと思っていた。光と出逢ったのは僅か数週間前のことだ。大した影響は出ない、そう思いたかっただけかもしれないが。
光がレイの生まれ変わりかもしれないと聞いたときは凄く驚いたけれど、どこかで納得もしていた。
光と会ったばかりの時、レイやバルログのことが脳裏に蘇って拒否反応を起こして吐いたことがあった。親友の妹という接点だけでそんなことが起きるなんて普通じゃない。いやまあ、俺は普通じゃないかもしれないけれど、光がレイを想起させて無意識の内に身体が感じ取ったのだと思う。
今となっては、俺はあの世界のことと決別するために光を利用していたとさえ思える。無意識の内でも、結果的に。
レイを想起させる光を遠ざけることで、かつてのことを清算しようとしていた。終わらせようとしたんだ、俺の罪を。何の関係もないこの世界で。
そんなことを口にするには少々勇気がいる。
勇者なんてかつては呼ばれていたが、魔王なんていう未知の存在を倒すために戦場から戦場へ渡る死にたがりに与えられた不名誉な称号だ。
こうして、平和に暮らしてみれば俺は少しばかり腕力の強い臆病者という方が正しい。なんかそう言ってみるとカッコいい感じだが。
「俺、思うんだよ」
黙っていても何も進まない。仕方がないので口を開く。そして、蓮華に見つめられながらも彼女の放ったコントローラーを拾い、操作する。
「結局主人公の名前はこれが一番いい」
そう言いながらカーソルを動かして打ち込んだのはカイトという俺の親友の名前だった。
うーん、こう入れてみるとなんかしっくりくるぜ……
「……誤魔化そうとしてます?」
「何が? 誤魔化すなんて人聞きの悪い」
ジトっとした責めるような視線と声を向けられるが、そちらを見ないようにすればダメージも少ない。ゲームでは勇者の名前が無事決まり、物語が進行する。
仮に、この勇者の名前がカイトでなくて、レンゲやコウだったとしてもつつがなく物語は進む。ゲームってのはそういうものだ。現実もそうならいいのにねぇ。
可愛いヒロインは速攻で出てきた。先手必勝と言わんばかりに。どうやら幼なじみらしい。俺は頭の中で彼女をツムギと呼ぶことにした。
『私、絶対お医者さんになるわ。まあどうしてもっていうならカイトのこともちゃんと診てあげるわよ。特別にね』
どうやら医者志望らしい。ドクターツムギってわけだ。ツンデレっぽいのは古藤っぽくないが、完全に寄せられても変だからいいだろう。
「目の前の問題から逃げる人は、人生いかなる問題からも逃げる人だ」
「……何それ有名な格言?」
「とある映画からの引用です。今の鋼にぴったりだと思って送らせてもらいました」
「逃げてないだろ。逃げてない。ほら、今目の前の問題はこの混迷の世界を勇者カイトが救えるかどうかで」
「むー……」
納得がいかないかのようにうなり声を上げる蓮華だったが、
「はぁ……分かりました、今は解放してあげます」
そう溜め息混じりに折れてくれた。やっぱり蓮華さんは優しい。ぐうの音が出ないほどの聖人だ。
「でも、私は逃げませんから」
そして、そんな男気溢れる決意を漏らして、蓮華は質問を取り下げた。
責める音色ではない、むしろ自分自身に向けられた言葉だ。それでも、その言葉にダメージを受けたのは他ならぬ俺だった。色々言い訳をして画面の向こうの勇者を操作しながら逃げ続ける俺はやはり勇ましさとは無縁らしい。
◇
夜が明けた。そして魔王は倒れ……ては、流石にない。
最近のゲームは一時間じゃセーブゾーンにも辿り着かないんだぜぇ! と言う某ゲーマーよろしく、セーブゾーン間もなかなかのボリュームを与えてくださる最近のゲームさんは夜通し頑張ってもまだまだゴールは見せてくれない。
パッケージのパーティーメンバーっぽいキャラクターも全員揃ってはおらず、主人公カイト、幼なじみのヒーラーツムギ(あだ名)に二人追加されただけ。
ひとりはドジロリっ子の魔法使い。あだ名は特にない。が、お兄ちゃんかっこはーとな彼女はベタなヒロイン候補と言える。現実の快人もどこかその辺の幼子を手なずけていたりしていないものか。
「好木さんはこの枠なのでは?」
「あいつはロリってよりラリだから。枠に当てはめられるようなやつじゃないんだよなぁ」
妹の友達という点ではポイントは高いけれど。そういえばあいつも香月と一緒に昨日勉強会で綾瀬家を訪れた筈だ。何か快人とイベントが起きていた可能性も微レ存……?
「彼女に関しては特に何も無かったですよ」
あっ、ふーん。微粒子レベルはやはり微粒子レベルだった。ヒロイン昇格ならず……っ!
と、話が逸れたが、ゲーム内ではもう一人、ガタイのいい大男が仲間に加わった。壁役で、ガハハと笑うガサツながらに面倒見がいい……俗に言う脇役おっさんである。
名前はスティール。堅そうな名前だが、和名にすれば……
「じいさんからおっさんに若返ったな!」
「喜ぶところですか?」
蓮華さんは怪訝な顔をしているが、俺としては全く問題ない。むしろ良いまである。
戦闘では盾役として頼りになり、冒険面ではガサツに笑い、率先してトラップを踏む起承転結でいうところの転担当。きっとストーリーでは大して掘り下げられず、戦闘面でも後半になると素早さ遅いし魔法使えないしでなんだか微妙な存在になるのだろう。人気投票も敵より下の二桁代なんだろう。
ただ、プロフェッショナルのプライドを感じさせる素晴らしき脇役ムーヴに憧れを抱かずにはいられない。ああ、俺もこんな大人になりたい。
「ですが、こういう脇役のおっさんキャラがパーティーから追放されるとパワーアップして仕返しに来るらしいですよ」
「マジでか」
「しかも幼女を拾って綺麗な女性も拾ってモテモテの人生を送るというのが定石みたいです」
「それもう主人公じゃん! 脇役じゃないじゃん!」
「そうですね」
「詐欺じゃん!」
「……普段から自分をモブだのなんだの言いつつ女の子に囲まれているどこかの誰かさんには言われたくないと思いますが?」
へー、そんな人がいるんだね、ふーん……誰だろそれ……と思いを巡らしつつゲームの電源を落とす。
まだまだ序盤。続きは気になるがおっさんが主役堕ちするかもと考えたら、俺はもう耐えられないかもしれない。見届けたいが見るのも怖い、何だか複雑な気分だ。
「んっ……それにしても疲れましたね。夜通しゲームなんて久しぶりでしたし」
大きく伸びをして大きく息を吐く蓮華。大きな双丘がファフっていたのに一瞬目が奪われたのは疲れからだろう。
しかし、秘孔を突かれ生ける屍と化していた俺に対し、蓮華は若干先に寝ていただけに過ぎない。疲れははっきりと見えていた。途中起きながらも意識を飛ばす瞬間だってちょいちょいあった。
何も無理して起きていなくても良かったのに……
「なあ蓮華、お前ちょっと寝た方が」
「お嬢様」
蓮華に声を掛けようとすると丁度のタイミングでセバスさんが入ってきた。
「もう朝です。そろそろご支度を」
「そうですね。鋼、シャワーは浴びますか? 私は浴びますが」
「……そこでハイアビマスって付いていくわけにはいかないだろ」
「別にいいと言ったらどうします?」
「そりゃあ……その時考える」
「そうですか」
蓮華はそう言って微笑し、セバスさんと一緒に部屋から出て行った。勿論、別にいいは無しだ。
部屋を出ていく蓮華の足取りは少し覚束なかった。やはり疲れがあるみたいだが、言い出すタイミングは逸してしまった。
「鋼様」
「んだよ」
最早驚くことも無い。いつの間にか音も気配も無く後ろに控えていた冥渡に返事を返す。
「私には付いてきてもいいですよ」
「付いて行かないので田舎に帰ってください」
「とか言って、付いてきたいんでしょう?」
「いやいや、無いから。勝手に行って、どうぞ」
「とか言って、付いてきたいんでしょう?」
「話し聞いてる?」
「とか言って、付いてきたいんでしょう?」
「……おっぱい」
「とか言って、付いてきたいんでしょう?」
「ゲームの登場人物かお前は!?」
「はい」も「いいえ」も全て「はい」にしようとする0と1の世界の住民よろしく、「はい」以外の言葉を受け付けなくなった冥渡。仕方がない……本当に不本意だが仕方ない。
「……わかった、付いていくよ」
「とか言って、付いてきたいんでしょう?」
「なんと言えば正解と!?」
訂正、「はい」も受け付けなかった。
キャプテン翼にはまりました。
↓
ダイヤのエースにはまりました。
↓
スパロボOGにはまりました。
というスパイラルにはまり更新が遅れました。
リハビリがてら、何か短編でも書こうかなとも思いつつ、なるたけ調子よく書いていければと思います。
ご期待に沿えない力足らずな部分もあると思いますが、暖かくお見守り頂けますと幸いです。
かしこ