表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/130

第7話 みっちりという言葉の響き

「座れ」

「……ハイ」


 生徒指導室なう。そう脳内SNSで呟きながら先生に従い座る。


「何故下座に座る? お前は奥だ」

「いえ、でも先生の方が目上で」

「いいから座れ」

「……ハイ」


 逃げ道を封じられた。上座(奥、窓際、出口の扉との間には先生がいるポジション)の椅子におずおずと座った。対面に先生(アラサー・未婚・美人だけど怖いイメージが勝り色々マイナス)が座る。


「最初に聞くが、」

「ハイ」

「何故裏門から侵入しようとした?」

「……」


 気まずくて視線を逸らした。

 が、追及するような先生の鋭い視線は俺の顔に突き刺さって逃がそうとはしない。


「何故裏門から侵入しようとした?」


 二度目。これは言うまで次に進めない感じだ。


「たまには気分を変えてみようかなぁと」

「3時間遅刻して気分を変える、か?」

「きっと先生が正門で待ち構えていると思い逃げ出そうと思っていました!ハイ!」


 圧のある先生の声に思わず正直に話してしまった。

 

 ちなみに、先ほどまでの展開はこう。


 学校に着く→正門に担任が待ち構えているのを発見→咄嗟に裏門に回り込む→塀をよじ登ると何故かそこには担任が(今年一番のミステリー)→そのまま生徒指導室に連行→現在


「きっと?きっとねぇ」


 ああ、これバレちゃってましたね。てへっ☆



 って、バレてんのかよ!?

 てへっ☆じゃねーよ!馬鹿か!


 もう先生の目はマジだ。震えてきた。

 ぶっちゃけ、死を覚悟しています。


「すみません……」

「一応、事情は綾瀬から聞いている」


 綾瀬というのは兄の方である。主人公であり、そして、スピーカーにした戦犯、ダークヒーローだ。


「だが、綾瀬の家に行って鞄を忘れたというのは100パーセントお前の過失だ。分かっているな?」

「……ハイ」

「それに私にも暴言を吐いたな」

「いや、それは」

「行き遅れババア……だって……?」


 アカン!この人自分で言って傷ついてる!

 なんて酷いこと言っちゃったんだよ俺ェ!?


「取りあえず夏休み中の補習は決定だ」


 このババァ!!!!!


「ええっ!?期末テストは三週間後ですよね!?補習は赤点を取った生徒の特権だって先生言ってたじゃないですか!ちなみに赤点は40点以下だって聞きました!」

「赤点を取ろうが取るまいが、懇切丁寧に補習の説明をしようが、お前は補習決定だ」


 ニヤリと先生が悪い笑みを浮かべた。


「か、勘弁してつかぁさい!高校生の貴重な休日を何だと思ってるんですか!」

「私の夏休みは一週間もないが?」

「すみませんでしたぁ!」


 公務員大変!そりゃあ結婚も出来ないよね!社会人はみんなそう?せやな!!


「し、しかし先生」

「何だ?」

「自分は授業に行かなくていいのでしょうか」


 今は四限が始まったくらいの時間だ。こんなところ(監獄)で時間を潰していていいのだろうかという、至極真っ当で真面目な発言だったのだが、


「二日連続、三回も私の授業を飛ばしておいてよく授業に行かなくていいのでしょうかとか言うなぁ?」


 担任(国語担当、現代文、古文漢文兼任)は圧のある笑顔で俺を見てきた。今の俺は蛇に睨まれた蛙状態だ。今吐血してない? 大丈夫?


「今日はみっちり、補填授業をしてやろう。担任権限というやつだ」


 曰く、この後はもう先生の担当授業は無いらしい。他の科目は? 知らないよ、この人のクラスでは国語が何より優先される。

 だが、今はそんなことより重要なことがあった。いや、今までのが全て吹き飛ぶかのような、重要なセリフがあったんだ!!!


「みっちりって何かエッチな響きですね!」

「死ね」


 ノータイムッ!

 もしもこれが主人公なら、『ちょっ、先生相手に何言ってんのよ! あなたは生徒でしょっ、そういうのは卒業するまで……って何言わせんのよ! こんの馬鹿ちんがぁ~!』とでもなるんだろうが、帰ってきたのは体罰よりも強力な心罰と言える暴言だった。


「お前用にはプリントを山ほど用意してある」


 ドンっと、さっきからチラチラ視界に入っていたプリントの山が俺の前の机に置かれる。


「え、みっちり……付きっ切りじゃあ」

「馬鹿か?終わった頃に見に来るから片付けておけよ」

「生徒に向かって馬鹿って教師としてどうなんですか!? ねぇってば! おおい!」


 先生は出て行った。

 俺は一人、生徒指導室においてけぼり……


「く……」


 口から、思わず声が漏れる。


「くくく……」


 それは、


「くくくくく! あーはっはっはっ!」


 勝利の笑い声だった!


 セーフ、セーーーッフ!!

 これを勝利だと言わずして何という!?

 確かに美人だが、恐怖の権化である行き遅れババアの監視を逃れたぞ!

 あとは適当にプリントを埋めてダラダラ過ごせば勝利だ!

 補習ってのも気は乗らないけど、それはそれで何だかモブっぽくていい感じだぞ!


「あーはっはっはっ! わーっはっはっはっ! ピャーヒャッヒャッヒャッ!」

「うるさいっ!」

「ハイッ! すまままませんっ!」


 すぐさま生徒指導室に戻ってきた先生に喝を入れられ、エンペラータイム終了。享年7秒。

 

この後滅茶苦茶プリントした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ