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第46話 椚木君のタイプ

後書きにニュースがあります。

良いニュースと悪いニュース、どっちが聞きたい?

 どうでもいいけれど、腕組んで机に突っ伏していると机と腕の間に息が溜まって蒸さない?

 微妙に机が湿るのも気持ちがいいものじゃないし、何より寝心地が悪い。


 というわけで顔を伏せての居眠りによる居心地の悪さに速攻で耐えられなくなった俺は、ホームルーム後は立て肘付いてボケっとしていた。

 間抜け面が晒される決定はあるけれど、今更誰も気にしないだろう。


「椚木君、大門先生が呼んでいたわよ」


 そんな俺に声を掛けてきたのはまさかの桐生だった。明らかに事務口調……を超えて抑揚のないロボットみたいだったが、確かに俺に声を掛けているようだった。視線は逸らされているが。


「……一限始まるし昼休みに行く」


 そんな彼女の真意が読み取れず、手短な返事を返す。俺も咄嗟の返答に抑揚を失っていた。

 それだけのやり取りを済まし、桐生は自席に帰って行った。何がしたいのか分からず目で追うと少しご機嫌そうにスマホを弄っている。


 その姿を見て、なんとなく古藤に連絡してんのかなーと思った。

 桐生に古藤以外の交友は見えないし、スマホはあまりいじらないタイプということから導いた消去法重視の杜撰な推理だ。

 なんとなく彼女の反応について考えていると、漫画で得た社会常識が脳裏を掠めた。


 もしや、桐生と古藤は俺を……ウ○コみたいに思ってるんじゃ無いだろうか。小学生がウ○コをつついて「ホラー! 俺ウ○コ触ったぜ! 次お前な!」みたいなアレ。

 まあ、まだ多感な学生のやることだ。性的マイノリティ(誤解)を見つけて弄りたくなる気持ちも分かりますよ。

 ただ、世の中にはそういった性別とかの問題の取り扱いに厳しい人もいる。優等生の意外と子どもな姿は新鮮だが、変にSNSでDQNアピールして炎上なんてならないよう気をつけるんだぞ、とウ○コの俺はお父さんのような寛大さで思うのだった。



「先生、僕はウ○コですか」

「突然何だ」

「質問に質問で返さないでください」


 先生は困っている。困らせているのは俺だ。


「……普通だ」

「普通のウ○コですか」


 イラッと擬音が聞こえてきそうだった。

 顔をしかめる先生に、俺は落ち込んだ表情を向けながらも足だけは一歩後ろへ下げる。


「お前を呼び出した訳だが」

「まさかのスルー」


 全然まさかじゃない。


「体調は大丈夫か?」

「へ」

「今は大丈夫そうだが、昨日の死人みたいな姿を見た身としては気にするなという方が無理がある。ホームルームもぐったりしていたしな」


 そう言って大きく溜め息を吐く先生。「心配して損した」とのデザート付きだ。


「それだけ、ですか?」

「ん?」

「そんなの……そんなの先生がただ優しいだけじゃないですか!」

「声が大きいな、職員室だぞ此処……」

「大門先生優しいエピソードの肥やしになっただけじゃないですか。やっぱり僕ウ○コじゃないですか」

「声は小さくなったが言葉が汚い」


 はぁ、と大きく溜め息を吐く先生。


「そもそも優しいというのは語弊がある。生徒思いと言うのが適している」

「うわぁ、自分で言うとうわぁ……てか、病人が心配ならわざわざ職員室に呼び寄せなくても」

「体が怠ければ来ないだろう? そもそも健常な状況でも半々ですっぽかすのだから」


 呆れたような表情を向けてくる先生。恐縮です。


「まあ、元気になったみたいで安心した。テストにぶつかるならともかくテスト直前に体調不良で勉強不足というのに補填措置は取られんからな。ただでさえお前は最近サボりがちでこのままだと留年もあり得るわけだし」

「恐縮です」

「褒めてない。ああ、保険委員には謝っておけよ。お前を保健室に連れて行ってくれようとしたのに、頑なに拒否したんだからな」

「……記憶にございません」

「それなら尚更だ」

「はい……」


 しょぼん。本当に記憶にないが無意識で悪いことをしてしまったみたいだ。後でジュースでも買っていこう。


「やあ、椚木君」

芦北(あしきた)先生、お疲れさまです」

「うん、お疲れさま、大門君」


 反省する俺をよそに先生は丁度やってきた壮年の男性教諭に声を掛ける。

 数学担当の芦北だ。オーバーフィフティで、白髪混じりのおじさん。ちなみに既婚で物腰柔らかな紳士である。


 だが、なんだか意外だ。大門先生みたいなアラサー独身女性は独身男性を重視し、芦北先生みたいな既婚男性は避けそうなものなのに(酷い偏見)、ふつうに会話している。


「お前失礼なことを考えていないか?」

「滅相もない」


 生徒思いの先生は思考も読んでくるらしい。プライバシーは思いやらない模様。


「椚木君、体調不良と聞いていましたが大丈夫ですか」

「あ、はい。心配かけてすみません」


 淡々とそう言う芦北先生に思わず頭を下げる。


「私に対してと態度が違うな」

「そりゃそうでしょ」

「あ? 何がそりゃそうなんだ?」


 ギロッと擬音が聞こえてきそうな睨みを食らう。くぬぎくんの素早さが下がった!


「ははは、相変わらずお二人は仲がいいですね」

「仲が良い、というのは語弊がありますが」


 尻すぼみ気味にトーンを落とす大門先生。流石のアラサーもオーバーフィフティには敵わないようだ。


「ところで椚木君、唐突な質問になりますが」

「あ、はい」

「椚木君は彼女はいますか?」

「へ?」

「ちょ、芦北先生」


 本当に唐突な言葉に面を食らう俺と、諫めるような言葉を発する大門先生。

 しかし、この芦北という男、ニコニコするだけで聞いちゃいねぇ。


「いませんけど……」

「そうですか。椚木君も2年生、来年は受験シーズンですから遊べる夏休みは今年が最後でしょうし、夏休み明けはすぐに修学旅行ですよ? 私も妻とは高校時代に出会いましてね、今は実感が無いかもしれませんがこの時期に生涯の伴侶と出会うことも十分あり得ますから」

「は、はあ」


 まさかオーバーフィフティの紳士芦北にそんな学生の色恋を推奨されるなんて思わなかった。


「ぐ、ぐぐ……」


 いけない! 芦北の言葉がアラサーにクリーンヒットしている! だめ押しのタイムリーヒット食らってる!


「して、椚木君」

「は、はい」

「好みの女性のタイプはありますか?」


 止まんねぇなこのジジイ! いきなり現れて場をかき乱すのはNG!

 しかし、さも当然のようにセクハラ発言を行うジジイの表情は菩薩のような悪意のない笑顔で、なんとも文句を言いづらい。


「……面白い話だな、椚木。聞かせてみろ」


 ダメージを引き摺っているかのように引きつった笑顔を浮かべるアラサーから追撃が加わる。

 こいつ、自分が勝手に傷つけられたからって俺を巻き込もうとしてやがる。俺の恥ずかしトークを引き出しておちょくってこようとしてやがる。とんだ生徒思いの教師だよ!


「えっと……」


 片や純粋な笑顔という拒絶しがたい圧、片や担任教師というアドバンテージを存分に生かした剥き出しの圧……一生徒である俺に退路は無かった。

 ここは何とか乗り切るしかない。ただテンプレ返答、例えば「優しい人」みたいなありきたりなことを言っても、ジジイはともかくアラサーは認めてくれないだろう。「で?」と次を促される未来が見える。


 分かった。この不毛なやり取りを終わらせるには、たとえ一時の羞恥にさらされようとも相手をドン引きさせるような、すかした回答こそがベストだ。

 すかした回答、すかした回答……時間は無制限ではない。長引けば長引くほど言いづらくなる。求められるのはスピード、そして勢いだ。

 俺はすぐさま脳裏に過った言葉を大して意識もせずそのまま言葉にした。




「俺のことを絶対に好きにならない女性ですかね」




 空気が凍った。


 芦北先生の紳士のような笑顔も、大門先生の引きつった笑顔も、まるでその感情が零れ落ちてしまったかのように、2人は呆然と、驚きに固まっていた。


「え、えっと……」


 正直予想外だった。「なんだそりゃー!」とか、「カッコつけてんじゃねー!」みたいな反応を求めていたのに、これじゃあ「聞いてはいけないものを聞いてしまった」みたいなリアクションだ。


「あ、俺、お腹減っちゃったんでそろそろ行きますねぇ!」


 先ほどとはまた違う居心地の悪さに包まれ、俺は咄嗟にそう言って職員室から出た。

 失礼しましたと言いつつ扉を閉め、小さく溜息を吐く。なんで俺がこんな目に合わなければいけないんだ。


「そもそも、何であんなこと言ったんだろう」


 思えば先生たちが固まるのも納得が行く意味の分からない返答だった。しかもイタい。どうして咄嗟といえどあんな言葉が口を付いて出てきたのだろう。中二病爆発したか?


「おやおやおやっ!」


 そんな俺のアンニュイな気持ちを許さないかのように、畳み掛けるように背後から声を掛けられた。

 これは振り向くまでもない。それなりに優秀で品行方正な15歳から18歳の高校生が通う嚶鳴高校内でありながら、一言でその馬鹿さ加減を伝えられる天才的馬鹿を俺は1人しか知らない。


「椚木さん、奇遇ですね!」

「最早奇遇というより呪いだな」


 昼休みに教室から抜け出せば最後、このクソチビに捕まる呪いにかかっているのかもしれない。

 声の主は当然一個下のバカ、好木幽である。


「ゆうは友達を待っていたところですが、まぁ椚木さんも友達ですからね、許してあげるですよ」

「そうすか……」


 何を許されたのかよく分からない。そんな思いを乗せた返事はあまりに気だるげなものだった。普通の人ならそれで俺のブルーな心情を察してくれるものだろうに、目の前の馬鹿は当然察してはくれる筈もない。ここはさっさとエスケープして……


「ちょっと、どこ行くですか?」


 しかし、まわりこまれてしまった!


「購買寄って、教室に帰るつもりですが」

「いやいや、お話ししましょうよ。折角ですから!」


 何が折角? 俺はお前と出会って以来エンカウント率の高さに辟易としているんだけれど。

 などと返答をしたところでこいつが聞く筈も無い。しっかりとズボンを掴まれ動きも封じられてしまっているところ抜かりが無い。


 芦北や大門とはまた違う、無邪気な子どものような笑顔を浮かべるゆうたを見て、俺はただ溜息を吐くという抵抗しか出来なかった。

 当然、そんな溜息に乗せられた俺の心情が彼女に伝わることも無かった。

突然ですが、主婦と生活社「PASH!ブックス」様より書籍化が決まりました。シンジラレナーイ。

書籍化していいような作品なのかどうかは、しらなーい。


発売日とか諸々は追々のご報告となりますが、応援していただいている皆様に少しでも早くお伝えしたく、今話も寝る間を惜しんで書きました!(今後も惜しむとは言っていない)


これからも面白いと思っていただける作品が書けるよう頑張ります!


宜しければブクマ、ポイント評価もお願いします!

モチベーション上がります!! なにとぞ!!


以上です!(悪いニュースがあるとは言っていない)

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