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第3話くらいでそろそろタイトル回収しないと怒られる

 放課後! 何て素晴らしい響きなんだろう。誰が作ったか分からない言葉だし、放課って何って感じだけど、これに心がウキウキするのも十代の間だけなんでしょうか。


 年を取るたびに人は何かを失っていく、悲しいです。


「鋼、今日遊ぼうぜ」

「イイヨー」


 オレ、カイト、シンユウ。アソブ、タノシイ。


 授業終わり、快人に声を掛けられて二つ返事で了承した。

 というのも、俺と快人は親友なのでよく一緒に遊ぶ。俺と遊んでいる暇があったら女の子と遊べよと思わなくも無いが、この鼻に付かない感じが彼の魅力でもある。


 かくいう俺も快人から誘われれば基本断らないようにしている。用事なんて滅多にないし、こういう時は意外とイベントが発生したりするからだ。


 快人には現在、古藤紬、桐生鏡花の他に既出ヒロインが二人いる。この高校の生徒会長と、一つ下の陸上部の新人エースである。紹介は登場したらしよう。

 古藤以外の桐生と残り二人は俺と快人のアフタースクールイベントの際にフラグが立った相手なのだ。

 というわけで、今日も新たなヒロインを探してレッツラゴー!


 ちなみに、古藤は部活、年下ヒロインも部活、生徒会長は生徒会などとヒロインたちは意外と多忙である。当然快人は帰宅部なので暇人だ。

 ラブコメ主人公なら創作の中にしか存在しないような得体の知れない部活作ってヒロイン達と部活動しろよと思わなくも無いが、出てくるヒロイン達がみんな部活に精を出しているとなるとそこから引き抜いて新しい部活をさせるなんてのは難しいだろう。

 下手したらヒロインたちの魅力を削いでしまうかもしれない。ラブコメ主人公の作る部活はどうせ、


・お菓子を食べる→雑談パート。作者の箸休め。

・人助け→何故か相談事が舞い込んでくる。ヒロイン発掘かヒロインとの仲を深めるのに役立つ。


 くらいしかない。生産性が無さすぎる。とても履歴書には書けない。当然、至極真っ当な教育カリキュラムに則る我が校では認可されるわけがない案件だ。

 そういうわけで、ヒロイン達は皆忙しいから俺に白羽の矢が立ったというのはごく自然なことだ。こういう時のための親友モブですよ。


 なお、桐生鏡花はさっさと帰った模様。なんなのあいつ。ちゃんとしろ。





「おっじゃましまーす!」


 誰もいないであろう、快人の自宅に上がる。快人の両親は海外出張中で、現在はこの二階建ての一軒家に妹と二人暮らしらしい。実にテンプレな設定だが、素晴らしいと思うよ。


 俺が快人の家に来るのはよくあることだが、未だに快人の妹を見たことは無かった。なんでも俺たちと同じ高校らしいが、なんでも生徒会に所属しているとのことで、生徒会長と一緒に行動しているとのこと。生徒会に一年が入るには入試でトップの成績を修める必要があるのだから相当優秀らしい。入試トップなら新入生代表挨拶をしたんじゃないかって?

 おい、勘弁しろよ。入学式はサボった。俺がな!!!!


 俺は生徒会長が苦手で自然と妹ちゃんと接するタイミングが無かった。俺は夕方には帰っちゃうから帰宅タイミングに出くわしたことも無い。

 

「スラブラでもしようぜ」


 快人の言葉はいつも通りだ。ちなみにスラブラというのは有名なゲームのこと。

 正式名称、「スラッシュブラザーズ」。詰まれたモンスターを画面を擦って倒しまくりポイントを稼いでいくスマホゲームだ。所謂積みゲ―。

 通常一人プレイのものだが、対戦モードもある。消したモンスターに応じて相手の画面を妨害できるというものだ。それをやりながらだらだら喋るのが俺と快人のマイブームである。いや、アワブーム?


「そういやそろそろテストだな。快人勉強してんの?」

「んーぼちぼち」

「最近調子いいよな」

「テスト前は蓮華さんが教えてくれるから」

「なぬっ!? 我が嚶鳴高校生徒会会長にして命蓮寺グループの社長令嬢であるあの命蓮寺蓮華!?」

「妙に説明口調だな・・・」

「てめー! 絶対裏切り許さぬ!」

「おいっ! 直接相手の画面を妨害するのは反則だろ!?」


 テッテレー。俺の画面から勝利のファンファーレが流れた。虚しい勝利だった。


「我に敵う者は無し……」

「虚しくないの?」


 虚しいわ!

 的確に生傷を抉ってくる快人に恨みがましい目を向けつつ、再戦の準備をしていると、ガチャっと控えめにリビングの扉が開かれた。


「兄さん……」


 その、どこか暗い声色に心臓が掴まれたような感覚を覚えた。


「あれ、光? もう帰ってたのか?」


 目を丸くして快人が問いかける。

 光、そうだ、確かそういう名前だった。顔を見たことは無いが、名前くらいはよく耳にする。

 だが、そんなの問題じゃない。


「あ……」


 彼女、綾瀬光あやせひかりが目を見開く。俺を見て。俺はというと、多分苦虫を嚙み潰したような何とも言えない表情を浮かべていることだろう。


「ああ、もしかしたら顔を合わせるのは初めてかもな。こいつ、友達の椚木鋼。こっちは妹の光」

「……ども」

「今朝の……?」


 挨拶には挨拶で返しなさいとママに習わなかったのか!? と言いたいところだが、俺はそんな軽口を叩けなかった。とてもそれどころでは無かったからだ。


「今朝? 何かあったのか?」

「その、助けてもらったの」


 何から、ということは言いたくないのだろう、そう端的に説明する綾瀬光。

 そう、彼女はあの露出狂(通称R-15おじさん、個人的にはR-300 あっても足りないおじさん)に襲われかけていた被害者だ。どこかくたびれたセーラー服を見ると、今日はあの後家に帰ってショックのあまり寝込んでいたのだろう。テンプレ……テンプレなんだけどさぁ……


「そうだったのか。鋼、悪かったな」

「いや……」


 まるでコミュ障みたいな返事しか返せない。普段の俺なら、「なぬっ!? これが快人氏の妹殿でござるか!? 妹さんを拙者にくだされっ! まきびしっ!」くらい言うのだろうけど、とてもじゃないがそんな軽口叩けなかった。

 よりにもよって今朝の少女が快人の妹だったなんて。

 ある意味テンプレな展開に、俺はテンプレの神様を呪った。


「今朝はありがとうございました……椚木鋼先輩」


 しかも名前ひかえられてる。快人が紹介しちゃったからなんだけど。


「い、いえ」


 これはマズい。色々とマズい。


 妹というのは王道ヒロイン属性だ。生まれた時から無条件で主人公より下の存在。庇護欲をそそらせる自尊心キラーELの持ち主だ。少子高齢化、不景気の煽りを受け、セルフ一人っ子政策が進んだ現代では絶滅危惧種となりつつある存在だ。

 当然、快人のラブコメハーレムには欠かせない存在だろう。肉親という許されざる関係だからこその天然物のツンデレにも期待していた。俺のいないところでだが。

 しかし、そんな妹が親友モブと主人公を介さない繋がりを持ってしまったら? クソビッチと煽られ人気は低迷することになるだろう。ましてや、それが悪漢(漢という漢字を使うことも憚られるモンスター)に襲われているところを助けてくれたヒーローとヒロインの関係なんてなってしまったら。


「用事思い出した、帰る」


 グルグルグルグルと纏まらない思考に翻弄され、気が付けばそんなことを言っていた。


 おどけることは出来た。誤魔化すことも出来た。とぼけることだって、それは主人公の特権だがやろうと思えば出来ただろう。

 妹である彼女に誤魔化すために綾瀬快人と兄の名前を名乗り、違和感を埋め込んでしまった、余計な違和感を与えてしまった俺に落ち度があったとはいえ、ここでこの問題を解決しておかなければ後々問題が膨らんでいくのは目に見えていた。


 けれど、


――コウ、もしもよかったら僕の妹と会ってやってくれない?

――妹?

――うん、コウの話をしたら会ってみたいってきかなくって


「うっ」


 胸から這い上がってきた異物感に思わず口を押える。

 見れば快人と綾瀬光が驚いたように俺を見ていた。


「こ、鋼? どうした? 凄い汗だぞ」

「何でもない、それじゃ」


 逃げるように、俺はバタバタと綾瀬家を後にした。

 暫く走って、見つけた公園の公衆トイレに駆け込むと思いきりトイレに吐瀉物をぶちまけた。


――ふふ、コウさんって面白いですね


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


 何やってんだ、俺は。彼女は違うだろ。全然違う。ただ妹ってだけだ。それだけじゃないか。

 だけど、なんで、こんなに思い出すんだ。逃げてきたのに、もう忘れたい、忘れたはずなのに。俺はもう、親友モブなんだ。弁当箱に入っていても、パセリみたいな存在で・・・


――コウ……さ……もし……兄……


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


 叫んだ。ただ叫ぶことしか出来なかった。それは後悔なのか、恐怖なのか、怒りなのか分からない。ただ、今までずっと眠らせて脳の奥底にしまい続けていた闇が姿をのぞかせてきていた。




 バキっ、と音がして我に返る。


 便器の縁が、俺の手によって粉々に握りつぶされていた。

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