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第25話 二人目の友達(涙)

「うぷっ、死ぬかと思いました……」

「君、本当に女子?」


 餅ではなく普通の白米を喉に詰まらせて窒息しかけたチビは食堂のテーブルにぐったりと伏せていた。グロッキーである。


「それじゃあ、私は行くが……好木は大丈夫か? 救急車を……」

「先生、米を喉に詰まらせて死にかけたなんて笑い話にもなりませんぜ。ここは穏便に保健室で済ませましょうや」


 ていうか救急車ってオーバー過ぎィ!


「そうだな……だが、その言葉遣いはなんだ?」

「いやぁ、敬意の表れでさぁ」


 本当なら姉御って呼びたいくらいだぜ、姉御!


「ふざけているのか?」

「まさか、そんなわけないじゃないですか」


 あ、アカン。この人冗談通じない人やった。だから結婚出来ないんだよなぁ~。


「とにかくチビは俺に任せてください。先生の手を煩わせることもないですし、俺が連れてって休ませますよ」

「チビじゃなくて、好木だろう……。悪いな、任せていいか?」

「お安い御用です」


 本当なら保健室に連れて行く程のものではないとは思うけど、放っといて行方不明にでもなられたら俺が容疑者になってしまう可能性も微レ存。そんなテレビデビューは嫌だ!

 保健室に閉じ込めておけば安全でしょうね。学校に馬鹿隔離スペースがあって良かった。


「ほら、チビ。行くぞ」

「チビじゃないです……」

「ゆうた、行くぞ」

「お姫様抱っこで、お願いしますです……」

「お前結構余裕だよね?」


 ゆうたは通るんですね。そもそも要求出来る立場にあると思っているのか……。俺はゆうたを横手に抱え、保健室に向かう。


「何か嫌です! 檻に戻される動物みたいでっ!」

「よーく現状を理解しているじゃないか」


 さらに言ってしまえば動物よりも手薄い。イメージとしては米俵を腋に抱えて運ぶ感じ。いいイメージだ……

 そんなに暴れるとスカートの中が見えちゃうよぉ?


「犯されるですー!」

「物騒なことを言うな!?」


 生徒の少ない場所通っててよかったー。ロリコン認定されたらもう日の当たる場所は歩けない。


「俺はお前にびた一文興味なんて無い! お前みたいな薄っぺらい体系のやつよりも、俺はこう……ボンキュッボンなチャンネーがなぁ」

「つまり生徒会長みたいな?」

「アイツは違う」


 生徒会長は確かにボンキュッボンだ。美人でもあるが、だがしかし性格が駄目だ。香水も駄目。話し方もいかにもって感じで駄目。はい、スリーアウトチェンジー。


「椚木さんは贅沢ですねぇ」

「何か上からだな?」

「いえいえ、滅相も無いですです」

「いよいよ無茶苦茶になってきたな、その言葉遣い……」

「アイデンティティですからです」

「あー馬鹿が伝染るー」


 こいつと話していると駄目だ。本当に頭がおかしくなりそうだ。さっさと収容してしまおう。


「失礼しまーす。先生……はいねぇな」

「めそめそ……二人きりの保健室で、ゆうはこれから椚木さんにひん剥かれてあんなことやこんなことを……」

「それ、もういいから」

「ア、ハイです」


 落ち着いたゆうたをベッドに放り投げる。きゃふっ、などと変な声を出して尻から着地するゆうた。


「じゃあ、俺は行くんで」

「待つです、椚木さん」

「んだよ」

「お話ししましょうよぉ」

「お前状況分かってる?」


 予鈴はもう鳴った。もうすぐ五限始まるんだぜ?


「サボりましょう!」

「お前サラッと凄いこと言うね!?」


 思えばこの間もトランプのために授業サボっていらっしゃいましたね、この子。サボることに抵抗が無いのか……パンクなやつだぜ。


「こういうのはどうでしょう。ゆうの病状が悪化して看病していたと」

「悪くない」


 人間、一度サボれると思うと縋りついてしまう弱い生き物だ。そしてその泥を被ってくれる人がいるなら、あえて被ってもらうのもまた優しさなのかもしれない……(意味不明)


「んで、話って?」

「光ちゃんのことなんてどうでしょう」


 僅かにゆうたの放つ空気が変わった。


「椚木さん、この間光ちゃんのこと聞いてきましたよね。わたし、気が付いていました」


 口調も変わってる!? 何か知的になってる! 気がする。

 こいつ、まさか普段は馬鹿なフリをしているが、実は頭が良い的なアレか!? アレだったのか!?


「椚木さんが光ちゃんのこと好きだって!!」


 あ、こいつやっぱり馬鹿だ。

 いやいや、でももしかしたら勘違いしつつも理論的には破綻していないかも……


「でも、わたしのことも気になっていて二人の少女の間で揺れているのでしょう!」


 やっぱり馬鹿だ(確信)。


「無理してそれっぽい話し方するなよ。ほら、端々で崩れ始めてるぞ」

「えっ、本当です?」

「ほら」

「だ、騙したですねっ!? 頑張ってたのにィ!」


 騙すなんてレベルの話じゃないけどネ。努力してそれなら才能無いわ。


「だが、綾瀬妹の話というのは悪くない」

「妹です?」

「あいつの兄貴は俺の親友なんだよ」

「なんとっ!」

「そんなに驚くことか?」

「見た目ほど驚いていないです。割とどうでもいいです」

「コノヤロォ……」


 時代が時代なら拳骨ものだが、ここは抑えろ……PTAを敵に回すにはまだ早い……


「でもまあ、照れ屋な椚木さんに免じて光ちゃんのこと教えてあげますよ」

「すっげえ上から目線だな」

「さぁさぁ、なんでも聞いてくれです」

「じゃあスリーサイズ」


 沈黙。


「……なんかいえよ」

「変態です」

「ごめんなさい!」


 なんでもと言われたらそういう話になっちゃうというのが男子高校生のサーガなんだよっ!


「じゃあ、改めて。前に言ってたよな。綾瀬がクラスで孤立してるって」

「……はい」

「あれって、お前が全ての元凶なんだろ」





「え!?」

「あ、違う?」

「違いますですよっ!?」

「だよねー」


 こういうのは大体最初に接触した奴が犯人というのが定石だが、それはあくまで物語を盛り上げるための手法でしかないわけで、現実に適用されることなど殆ど無いだろう。取りあえず言ってみたが外れっと。


「悪い、言ってみただけ」

「心臓に悪いです!」

「めんごめんご」


 っと、いかんな。ゆうたと話しているとすぐに脱線してしまう。授業をサボっているのに雑談に興じているなんて、まるで僕ら仲良しみたいじゃないか。


「でも、一概に違うとは言えないかもです」

「というと?」

「光ちゃんはクラスのリーダー的存在から標的にされていて……」


 リーダー的存在!?


「そいつは髭は生えているのか?」

「女子ですから生えていないです」

「いや、女子でも生えてるパターンあるから」


 ある……よな?


「しかし、女子のリーダー格に標的にされているとか、ヤバそうな気配がするな」

「よくある言い方をすれば、シカトというやつです。それも暗にクラス全体に強制しているでして」

「いじめじゃん」

「そうなりますですよね……」


 ぎゅっ、とベッドの布団を握りしめるゆうた。そこはかとなく悔しそうな面持ちだ。


「ゆう、光ちゃんの友達なのに、標的にされるのが怖くて、助けられなくて……でも、椚木さんと会って変わろうと思ったです」

「へ、俺?」


 俺なんかしたっけ……パンあげたくらいだったよな。


「椚木さんはひもじい思いをしていたゆうに救いのサンドイッチを差し出してくれたです」

「まさか本当にそのエピソードから!?」

「誰も手を差し伸べてくれない状況で、助けてくれた嬉しさは……きっとゆうにしか分からないです」


 そんななら、大人しく普通にあげてれば良かった……。でもそれをきっかけにたかられてるのだからプラマイゼロ……むしろマイだ。


「だからゆうも椚木さんみたいに光ちゃんに手を差し伸べられるようになりたいです!」

「ちょ、そんな凄い存在じゃないから、マジで! 一時のノリだから!」


 憧れられるとむずがゆいというか申し訳ないというか……


「でも、光ちゃんが学校に来なくなってしまって……ゆうも独りぼっちです」

「お前、綾瀬以外に友達いないの?」

「いないです」

「あ、そう……」


 なんかごめん。

 そういえば、綾瀬が電話でコイツが心を開いたのが珍しい的なことを言っていたような、言っていなかったような。


「まぁでも、アレだ。俺たちもう友達だろ?」


 とはいったが、友達、なんだろうか。自分で言って首を傾げそうになる。


「友達、ですか?ゆうと、椚木さんが……」


 ほら、ゆうたも首傾げちゃって……って、ええっ!?


「ぐす……っ、ふえぇ……」

「泣いたっ!?」

「嬉し、くて……ごめんなさい、です」

「いや、別にいいけど……」


 友達になったからって泣いて喜ぶ価値のあるやつじゃないぞ、俺は。友達入門編だからね? 攻略難易度高くないからね? 関係に困ったら取りあえず友達って言っちゃう系の人だからね!?

 なんて口には出来ず、めそめそと泣くゆうたの背中をさすってやる。これってセクハラ? セクハラだって訴えられないよね? 

 ゆうたちゃん、思ったより体温高いんだなぁ。 あ、これはセクハラですね……



 そんな、何とも奇妙な友達が出来た瞬間だった。

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