最終話 物語は終わっても物語は続く
「え……30年も!?」
「ええ。おかげさまで私達もこの通り……全く、時間の流れというのは残酷ですね」
「冥渡さん。貴方は寧ろ若返って見えますけれど?」
「お上手ですね、流石はお嬢様。おっしゃる通り、10代のピチピチの肌を手に入れました」
俺達が1か月弱住み親しんできたこのペンションの中は俺たちが来て以来一番の盛り上がりを見せていた。
どういうわけか、エレナだけを転移しようとした結果三バカは当然、丁度のタイミングで屋上に来ていた面々も一緒に連れて来てしまったらしい。
そんなわけで、変わり果てた冥渡に説明を受ける蓮華であったり、
「あの、お久しぶりです……変態おじさん?」
「その呼び方はやめろ……ブラッドと呼べ」
「あ、はい。ブラッドさん。私も光でいいですよ」
「光……そうか、ではそう呼ばせてもらう」
そんな意味深な会話を光とブラッドが交わしていたり、
「それじゃあ、エレナさんは鋼君の仲間だった、というわけかしら」
「はい。コウはずっと一緒に旅をした仲間でした。こちらの世界の事情に巻き込んでしまったことは本当に申し訳ないと思っていましたが……でも、結局ブラッドさんに頼んで連れ戻してしまったのですから、本当に口先だけですね」
「でも……それは彼が自分で選んだことなのでしょう?」
「そうはいっても、本来巻き込むべきでない人であることは確かです。鏡花さん、彼の幼馴染であった貴方にも大変ご迷惑をお掛けしました。本当に、申し訳ありません」
そんなシリアスな会話を鏡花とエレナが交わしていたり、
「ツモォォオオ!! リーチメンゼンタンヤオピンフ! そこにさらに三色同順! 即ち18000の6000オールッ!!」
「なん……だと……?」
「怜南ちゃんにこんな隠された才能がです……!?」
「す、すごいな、怜南……」
設置された全自動麻雀卓で三バカ+快人が麻雀を楽しんでいたりと、中々にわちゃわちゃした景色が展開されていた。
ちなみに、麻雀に関しては俺、冥渡、ブラッド、エレナの4人でやることが多かったが、一番強いのはエレナである。マジでこいつ特殊能力持ってんじゃないのってくらいアガるアガる。極めつけにエレナは「私、麻雀界の聖女を目指しますっ!」とか言い出す始末。こいつは出てくる世界を間違えたと誰もが確信した瞬間だった。
……などという話は置いておいて、俺は散々に折檻を喰らい、部屋の隅っこにボロボロの状態で転がされながら改めて思う。
――やっぱり潔くすぐに顔を出していればよかった……。
彼女ら、特に光、鏡花、蓮華の怒りは中々に中々だった。どうして俺が嚶鳴に現れたのか、どうしてエレナを連れて逃亡しようとしたのか、どうしてこのペンションにワープしたのか、もう何でもかんでもどうしてどうしてと質問攻めに合い、感情が爆発すると同時に手も出たりして、涙も出たりして……と、もうてんやわんやだ。詳細をじっくり思い返すのも憚られるほどに。
当然、出発から1週間で帰っていたにも関わらず、顔を出さなかった、報告も何もしなかったということもバレ、大変なお叱りを受けた。本当に心配したんだからぁと言われながら腹パンを喰らうラブコメ主人公の気持ちが少しだけ分かりましたよ。かつて、「テメー心配してるとか言いながら暴力振るってんじゃねぇぞ」とか思っててごめんなさい。
「まぁでも……帰ってきたんだな……」
彼、彼女らを見ていると、そんな実感が不意に湧いてくる。彼らにとっては1か月、けれど俺にとっては30年だ。ずっと異世界で過ごし、そしてこちらに戻ってきてもそれこそ1か月弱、異世界組ばかりと顔を合わせながら過ごしてきたんだ。その状況でこの世界に帰ってきたという実感を抱く方が難しい。
けれど、彼女達と会って、怒られて……けれど、無事を喜んでもらって……それでようやく終わったことを実感する。色々と肩に乗っていた荷物が降りたような気分だ。随分と遠回りして、長い時間をかけて、それでも進んできた、その全てが報われたような感じがする。ボロボロだけど。
「鋼」
「おぉ……快人氏……」
「氏?」
「いやぁ、退学したつもりだったんだけどな……休学扱いになってたみたいだし復帰しなきゃだろ? だから、新しいキャラを模索してて」
「キャラって……」
「だって、親友キャラはもう廃業だからな。お前に留めを刺されたから」
「ははは……」
快人が苦笑する。けれどやはり親友モブというポジションは担がせてくれそうにはない。
見ると三バカは異世界組に絡みに行ったようだ。女の子たちが楽し気に、文字通り会話に花を咲かしている姿はいいものだ。やはり女子高生は文化。一部女子高生の皮を被ったババアもいるけどな!
「鋼には新しいキャラなんて必要無いでしょ」
「あん?」
「だって、鋼は主人公だから」
「……いや、もう懲りた。さっきの見たろ、あいつらは猛獣だ。俺にゃ扱いきれないって」
「へぇ、そうやって光からの告白も無下にするつもり?」
「え゛」
口も口調も笑っているものの、その目は笑っていなかった。何故それを、と疑問が頭に浮かぶが口に出すことはできない。
「……なんて、妹の恋愛事情に口を出す気は無いけどさ。僕としては鋼が未来の弟かもしれないし、誠実であって欲しいと思うのは当然でしょ」
「未来の弟て……」
「それに鋼が光じゃない人を選ぶ可能性も十二分にあるし。ふふっ、大丈夫、ちゃんと僕がフォローしてあげるから。親友としてね」
そう、快人は今度は目も含めて笑った。つられて俺も笑う……勿論苦笑だが。
「でもさ、鋼。異世界でもモテモテだったでしょ? 帰ってきたくないとか思わなかった?」
「モテモテなんかじゃねぇよ……そういうのは一緒にいた、この世界には来なかった騎士が全部攫ってったからな。俺達が帰る時も嫁さん10人くらい貰って幸せそうにしてたよ」
「そ、それは……」
あちらじゃ重婚は合法。そういう意味じゃ変な話でもないのだが、そんなことを知る由もない快人はドン引きしたように口元をひくつかせる。でも仕方ない。俺も引いたもん。
「ま、まぁ、鋼が重婚を目指すってなら僕は止めないけどさ」
「止めよ? そこは友人として、いや人として止めよ?」
「状況によるよ」
状況によって変わる法なんてない。けれど、ここで快人と法について議論しても仕方がない。なので俺は降参の意味も込めて溜め息を吐いた。
「鋼」
「ん」
「おかえり」
「……ああ、ただいま」
キャラがどうなろうとも、変わることの無い親友からの労いの言葉に、今度はちゃんとした笑顔を返す。
残念ながら、俺には彼が望むような誰かを幸せにする主人公のような輝かしい存在は向いていないけれど、きっと周囲はそんなのどうでもいいし、遠慮もしてはくれないだろう。
親友モブとしての物語は終わった。けれど俺という人間の物語は続いていく。それをどこまで面白おかしく、楽しく充実したものに変えられるかは俺次第でもあり、彼・彼女ら次第でもある。
ただ、悲観は無い。少し怖い気持ちはあっても、彩り豊かな連中と過ごせるというのはワクワクする。きっと予想だにしない出来事が待っているのだろう。
「鋼さん? ちょっと……いいですか?」
いつの間にか輪を作るように集まっていた女子の中から光が、兄そっくりの口は笑っているのに目は笑っていないデススマイルを向けてきた。あの異世界三バカトリオ、なにか余計なことを言ったんじゃ……。
「……がんばって」
「そこは親友として救ってくれないの!?」
「僕には無理」
残酷に俺を見捨てた親友に背を押され、処刑台に向かう囚人の如く歩きつつ、悲観は無いなどとカッコつけたことを早速悔やむのだった。
読者の皆様
いつも大変お世話になっております。
としぞうです。
というわけで、これにて「親友モブの俺に主人公の妹が惚れるわけがない」完結です。
大体1年半と少し書いてきたみたいです。その割に話数が進んでいないのは……遅筆ですね、すみません。
とはいえ、エタらないことを一つの目標にしていたので完結できてよかったです。
ありがたいことに、皆様からご好評いただけたおかげで書籍版も出ました。
最初で最後かもしれない経験なので実にいい経験をさせていただいたと思っています。
ご興味あればぜひご購入いただければ嬉しいです!(多分本屋にはもう置いてないので通販などでお求めください)
今後ですが、もしかしたら極まれにショートストーリー的なアレが書きたくなって書くなんてこともあるかもしれませんが、それは書きたいと思ったらになるのであまり期待はなさらぬようお願いします。
一応別作品という形でモチベがある内は何かしら書いていけたらいいなぁと思っているので、応援いただけると嬉しいです。ガンバルンバです(死語)。
現在も別作品投稿しているので是非読んでください!(露骨な宣伝)
近況などはTwitterでもたまに呟いていくので……フォローしてくれよな(露骨な宣伝)
というわけで、最初の頃から楽しんでいただいていた方も、つい最近本作を見つけてくださった方も、応援いただきありがとうございました。
全ては皆さまのおかげです。皆様からの評価が無ければ5話くらいでエタってたと思います。割と本気で。
この作品がこんな締め方でどうなのか……という気持ちはありますが、僕的には満足しているのでこれで良しとします。
というわけで何度も何度もになりますが、ご愛読ありがとうございました!
今後ともよろしくお願いいたします!!
としぞう