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第119話 これにて完結、椚木鋼先生の次回作にご期待ください

「あっ、こ、コウ!? 駄目、駄目ですよ!」


 俺に抱きかかえられながら、エレナが素っ頓狂な声を上げた。

 エレナは異世界から付いて来た旅の仲間の1人である。職業は僧侶。魔法パワー(冥渡命名)で冥渡やブラッドと同様ムチムチボディのお姉さんから貧相なガキボディへと若返り、そしてあろうことか自発的にこの世界に付いて来てしまったのである。


「私、まだ心の準備が……その、高校の制服ってスカートが短くて、その……優しくしてくださいね?」

「何の話だ!?」


 そんなエレナは上目遣いで俺を見上げつつ、その目を少し潤ませて懇願してきた。

 当然意味分からないので、深堀したくはないが、おそらくはあの変態暗殺メイドから何か訳わからん知識を吹き込まれたのだろう。


「とにかく帰るぞっ!」

「え? でも、ですが、私まだこれから教室に戻らないとなのですが?」

「お前にまだこの世界での生活は無理! ついてくる時言ったよな、この世界のことちゃんと勉強するって」

「言いましたけど、それはコウと一緒にいたいから取りあえず頷いただけです!」

「ああっ、清々しいまでにっ!」


 始業式会場である体育館から校舎に、校舎に入ってはとにかくゲートを開くために人気のない屋上を目指す。


「お前、誠実さはどうしたの。トレードマークだったじゃん。僧侶だったじゃん」

「神に対しては誠実でしたよ。ですが、神よりも劣る人間風情に誠実である必要はないかと」

「うわぁ……」

「冗談です。うふふ、エレナーズジョークです」


 それ、嘘ってことじゃん。ただ、冗談なぞ言うのだからやはり誠実ではないのだろう。神に誓ってホニャラララなんて文言があるが、それって神に誓わなければ何やってもいいって意味じゃないからね。

 それにこいつはその神様捨ててまで俺達に付いてきたんだから……ああもう! こんな簡単に自由行動させてたら俺達を送り出したアレクシオンに立つ瀬が無い!


「コウ、コウ」

「んだよっ!?」

「後ろ、凄い速さで女の子が走ってきますよ?」

「あ? 俺ぁ、魔力強化して走ってんだぞ。付いてこられる奴がいるわけないだろ。ほら、もう屋じょ……」

「ドーンッ!!」


 俺は宙を舞った。背後から物凄く速い何かに飛びつかれたからだ。

 そして俺は思い出した。この世界には1人、常識では計れない規格外の陸上ガールがいたということを。


「捕まえましたよっ、先輩!」


 彼女が、香月が俺の背中に抱きついて嬉しそうに言う。それを俺は思わず手放してしまったエレナが宙をくるくると回転し、両の脚で華麗に着地するのを見ながら聞いていた。流石共に死地を生き残っただけのことはある。

 いや、今はそれよりも。


「香月、さん?」

「え、マジですよね! 椚木鋼先輩ですよね! なんですか、なんでこんな足速くなってんですか!? 滅茶苦茶興奮するんですけど! 汗舐めていいですかっ!?」

「おまっ、なに!? そんな汗とか舐めるキャラだったっけ!?」

「汗でも何でも舐めたいですよ?」

「変態やんけ!」

「アスリートはみんな変態ですっ! ああ、でもやっぱり先輩ですね! こんなに汗舐めたくなる人他にないですもん! 舐めますよ! 言質取りましたから!」

「とってねぇよ! 何の言質も与えてねぇよ!!」


 地面に倒れた俺の体を這い上り、首筋に鼻を近づけてくる後輩。控え目に言って、怖い。

 だってこいつ、魔力強化というスーパードーピングで通常の2倍ほどに速くなった俺に追いついて来たわけだからね? 素でやってんならもう人間じゃないよ。獣だよ。人の皮を被ったフレンズだよ。


「と、とにかく離れろっ! 俺の貞操の為に!」

「あうっ!」


 体を振って香月を背から剥がす。マズい、随分と足止めを食らってしまった。早くここから……、


「パパーっ!」

「ぱ? ゲフゥッ!?」


 弾丸……いや、砲弾だ。人間砲弾が俺の腹を穿った。

 香月のは俺を捕まえるという目的のタックルで、その分勢いにも優しさがまだあったけれど、今度のは俺の上半身と下半身にサヨナラさせてやろうとばかりに一切の容赦も何もなく突っ込んできやがった。


「ああ、本物です! 本物のパパです!」

「パパじゃねぇよ! お兄ちゃんだっただろ!」

「ゆうはパパ並みの包容力を求めてるですよ! この1ヶ月お預けを食らってパパはパパになったですから!」

「ごめん、本気で意味分からない……」


 腹筋ベルトの如く、俺の腹を、鳩尾をグリグリ頭で掘ってくるのはやはり好木幽。おちびな体がトレードマークのゆうたちゃんだ。


「本物……です?」

「……本物だよ」

「本物のパパ?」

「ごめん、それは多分本物じゃない」


 なんで香月もこいつもちょっとキャラ設定濃くしてきてんの? 

 これは明日からも使えないトリビアだけれど、実は俺、見た目は出発時と同様16歳の体をしているが中身はそれなりに老いてしまっているのだ。

 それこそあっちの世界じゃ30年近く過ごしている。それに耐えうるよう、不老不死の呪いを掛けられていたわけだけれど。

 その時間の積み重ねを思うと、あながちパパと言われてもおかしくないから困る。……まあ、ずっとガキの姿でガキ扱いされていたんだから、精神年齢がアラフィフになっているかというと違うだろう。精神年齢は肉体に引っ張られると言うし? 俺ぁ、まだピチピチのハイスクールボーイだぜ!


「というわけでパパはやめなさい。ママはいないでしょう」

「ママは大門先生です」

「本当にやめなさい。なんか生々しくなっちゃうから」


 ※なりません。

 おっと、思わず自分で注意書きを入れてしまったぜ。大門先生も元気かなぁ。この夏で結婚決めただろうか。決めてないだろうな(確信)。


「ならママは……ゆうがなってもいいですよ?」

「はい?」

「ママとパパで幸せな家庭を築くですよ。なんて、これじゃまるでプロポーズ……」

「はははっ、寝言は寝て言うんだな、ゆうた。俺は小学生に手ぇ出すほど怖いもの知らずじゃな、あっ、痛っ! ちょっ、コラ! 馬乗りになって人殴るのやめなさい! パパ許しませんよ!?」


 何この会話。何この理不尽! 何か凄く懐かしいんだけど!?


「幽ちゃん、どうどう」


 不意に、右手と左手を交互に振り下ろすだけのマシーンと化していたゆうたを誰かが退けてくれる。勿論腕でガードしていたから流血沙汰にはなっていない。だからCEROさん、出てこなくて大丈夫ですよ?


「っと! こっからはR-18の世界ィィィィィ!!」

「うおぉぉぉ!?」


 腕のガードを解いた瞬間、視界に移ったまさに今俺の顔面へと振り下ろされていた踵をなんとかギリギリ避ける。

 勿論避けれなければ真っ赤な花が咲いていたことだろう。


「ちっ、避けたか……!」

「何やってんの古藤さん!? 俺死んじゃうよ!?」

「大丈夫。くぬぎっちなら死なない。この屋上から落ちても死なない」

「何その信頼!?」

「大丈夫、ちょっとしたバンジージャンプみたいなものだよ。紐無いけど」

「じゃあそれバンジージャンプじゃないから! ただの飛び降りだから!」


 心無いいじめっ子みたいなことを言い出すのは古藤紬。俺の親友の幼なじみである。

 こうしてバカミューダトライアングルである、香月怜南、好木幽、そして古藤紬が揃ってしまった。まさか異世界産頭の中お花畑系天然世間知らずドジバカ破戒僧を拾いに来たら、この魔の三バカく地帯に入り込むなんて……バカとバカは引かれ合うということか。


「くぬぎっち、聞いたよ。異世界とやらに行ってたんだって?」

「え? ん、んん……」

「この紬ちゃんには何も言わなかったよね? それこそ、転校するって嘘さえも」

「あー、そうだったっけ?」


 いっけなーい! もうおいらにとっては何十年も前の話だからうろ覚えかもぉ……なんて、


「そうだったっけぇ……?」


 こいつに言っても何一つ通用しないよなぁ……。


「違うんだよ、ツムツム。俺ぁ、お前なら以心伝心で全部お見通しって思ってたんだよ、うん」

「都合のいいこと言って誤魔化そうとしてるよね?」

「ははっ、まさかぁ。ほら、ツムツムや皆のためにお土産だって用意しているんだよ? エレナや、そこに落ちてる紙袋を取ってきてくれるかな?」

「はいっ」


 三バカのジェットストリームアタックを受けて屋上の隅っこに転がっていた紙袋をエレナに拾わせる。振ってみるとちょっと嫌な音がしたが、まあいいだろう。


「お土産?」

「今お前らの一番欲しいものさ」

「それってパパ以外にです?」

「犯罪臭するからパパはやめなさい。いや、本当に、切実に」

「もしやピンクの靴では?」

「無駄にリアルなところ予想するな陸上ガール。それ嬉しいの君だけだから」


 やはり三バカは三バカ。三人よっても文殊の知恵にはならない。俺の目論見通り紙袋を渡された古藤に他の二人も寄っていく。

 その内に俺はエレナの手を引き寄せ……、


「これは……?」

「皆好きだろ、ハワイ土産、マカダミアンナッツさっ!」


 そして時は来た。

 魔力を練り上げ、形にする。咄嗟に作り上げた雑な作りではあるが、空間と空間を繋ぐゲートを。


「っ!? 先輩、なにを!?」

「まさか察するとは、野生の勘ってやつだな、香月! けれど遅い!」

「や、やめるですお兄ちゃん」

「お兄ちゃんならOK! でも、やめない! いいや限界だ、押すねってやつさぁ!」


 マカダミアンナッツ、君の犠牲は忘れない。また売店で見つけたら買ってやるからな。


 俺はゲートを開く。目的地は当然今下宿しているペンションだ。

 そして、次の瞬間には屋上の景色は吹っ飛び、俺はそこに着いていた。だらだらと待機していたメイドと男女が驚いたように目を見開いている。


「クックックッ……ハーッハッハッ! 勝った! これにて完結! 椚木鋼先生の次回作にご期待くださいっ!!」


 バレはしたものの、無事エレナは回収した。後はじっくり今後の対策を練りつつ、ほとぼりが冷めた頃にしれっと現れる算段で……、


「鋼さん、勝ったってなんですか?」

「鋼君、当然説明はしてもらえるのよね?」

「鋼、そう簡単に納得すると期待しない方がいいですよ?」


 しかし、そうは問屋が卸さないのである。

※続きます

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― 新着の感想 ―
[一言] 次回作って、男は皆ホモ、女は皆ヤンデレの世界で生きる鋼を画いた作品ですか? 心の底から楽しみです!
[良い点] ピンクの靴笑 またまたタイムリーなネタですね。 箱根見ながら書いてましたか? [一言] しかし、これ書籍化された後通じるのかなぁ笑
[良い点] 続く……続くよぉ……! 前回次回で最終回とかタイトルで言ってたから半ば絶望してたけどちゃんと続くよぉ……! [気になる点] やっぱ濃いキャラしかいねぇ…… しかしなんだこの実家のような…
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