第117話 噂をすれば影が差す
ちょっと短めです。
「なんだか不思議な人ね、エレナさん」
「うん……」
始業式直後、僕と鏡花は体育館から出て、少し前をクラスメートたちに囲まれて歩くエレナさんの背中を見つつそんな会話を交わしていた。
エレナさんは、そうだな、例えるなら僕らと生きている時間が違うという表現が合っているかもしれない。おっとりのんびりと物腰柔らかでマイペースだ。先も、自席についた直後、鞄からスケッチブックを取り出して何か幾何学模様を描いたと思えば写真を撮るなんていう、鋼なら不思議ちゃんと表現しそうな独特の行動を取っていたし。
「お兄ちゃん」
「光、怜南に幽ちゃんも」
「こんにちは~」
「こんにちわです!」
「正確にはまだおはようの時間だけれどね……」
体育館から出てきた1年3人組が僕らを見つけて近寄ってくる。
3人も僕らが見ていたエレナさんに気が付いたらしい。
「おや、見知らぬ美少女がおりますね」
「転入生だよ。エレナさんって言うんだ」
「外人さんです? 綺麗ですねぇ……」
「ええ、彼がいたらさぞ……、って光さん? どうしたの?」
「いえ……」
光は顎に手を当てて、何か訝しむようにエレナさんを眺めていた。
基本人当たりのいい妹らしくない、少し疑うような視線を。
「あの人、なんだか変……不思議な感じがします」
「変って……」
「不思議。不思議って言い直したから!」
「変わらないよ、光」
自分でも思わず出した攻撃的な発言に戸惑っているのか、光は少し顔を赤くしながら否定する。
けれど、変にしろ不思議にしろ、そういう感覚は僕には無い。それは反応を見る限り鏡花も、怜南、幽ちゃんも同様だろう。
「おやぁ? 美少女たちが揃い踏み!? 新学期が始まって憂鬱になっていた紬ちゃんへのご褒美ですかこれはぁ!?」
「ギャッ!」
「わっ! 紬ちゃん?」
突然現れた紬に抱きしめられ、幽ちゃんと光が声を漏らす。幽ちゃんのは割と切実で笑えない悲鳴だった。
「みんな揃って何の話してたのさ? もしかしてくぬぎっちの話? 早速?」
「早速って……別に違うわよ」
「そうなの? でもほら、噂をすればなんとやらと言うしさ」
「噂をすれば影が差す、かしら。それが本当なら夏休みの間に現れてもおかしくなかったでしょう」
紬の言葉を鏡花がバッサリ否定する。この2人のやり取りにも随分と見慣れたものだ。夏休みの間に2人で出かけたことも少なくなかったみたいだし、それこそ親友と呼べる間柄になったのかもしれない。
そう僕と、そして後輩3人組が2人を見守っていると、前方で何かどよめき声が聞こえてきた。
「な、なに!?」
「転入生ちゃんが攫われた!」
「ていうかあいつ……!」
物騒な発言に反射的にそちらを見ると、生徒たちの間からちらりと、お姫様抱っこされ長い金髪を揺らすエレナさんと、彼女を抱き上げた男子生徒の姿が見えた。
瞬間、様々な疑問と衝撃が僕、いや僕ら全員の中を駆け巡ったけれど、でも。
「っ……!!」
誰も互いに声を掛け合わず、一斉に躊躇なく走り出していた。
夜にはもう1話アップします。多分あと2話?
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