第111話 もう一人
三人称で女子パートを書いたお前……ゆるさないかんな!
彼女達は鋼達が屋上から出てくる前にその場を後にした。
当初の彼と話そうとしていたという目的を吹き飛ばしてしまうくらい、彼の話が衝撃だったからだ。最初こそ冗談めいた、本旨とはズレた会話をして誤魔化してはいたものの、一人、また一人と言葉を失い、やがて誰からともなく逃げるという選択を選んだ。
そうして彼女達が再びやってきたのは生徒会室。既に夕日も殆ど沈み夜が訪れようとしているが誰も帰路につこうとはしなかった。
「ふぅ……」
空元気さえも失い、すっかり落ち込んだ面々を見て蓮華は小さく溜息を吐く。
「皆さん、そろそろ帰られたほうがよろしいのでは?」
「……会長は平気そうですね」
「そう、でしょうか」
鏡花の言葉に蓮華は弱々しく微笑んだ。
彼女の回復が一番早かったのは元々鋼から過去の話を聞かされていたことが大きい。とはいえかつて蓮華が話したときより鋼の精神状態が安定していたこともあり、より詳細な話を聞かされたというダメージは決して小さく無かった。
「私は鋼と親戚同士……はとこの関係です。彼が話していた異世界での出来事も、彼が私たちの住むこの世界にやってきた直後から一緒に暮らしていましたから、知っていました」
「先輩の話は全て本当なんですか?」
「私の知る限りでは……それに綾瀬君が言っていた通り鋼は簡単に物語を創作できるほど器用じゃありません。彼の話したことは」
「……本当です」
蓮華の言葉を遮って声を上げたのは光だった。全員の視線が彼女に向く。
「鋼さんは、本当のこと言っていると思います」
先ほどよりも少し弱々しく、しかしはっきりと言う光。そんな彼女に同調するように頷いたのは先ほどまで鋼に怒りを燃やしていた紬だ。
「くぬぎっちは嘘はつかないよ。いや、嘘つきだけど……快人には誠実だから」
「古藤さん……」
「くぬぎっちは快人を親友って言ってるし、快人もくぬぎっちを親友って言ってる。でも、私はどうなんだろうって少し、考えちゃった」
恥ずかしそうに頭を掻く紬。彼女自身、鋼に抱く感情が彼女達と異なるものだと理解している。けれど、考えていることは一緒だと理解していた。
鋼の決意は固い。そして背負っているものは重い。
そんな彼が最後に快人と話すことを望んだ。この場の誰でも無く。
それは既に能動的にせよ偶然にせよ話す機会を得ていたというのもあるだろう。相手が女子だから、もしかしたら大なり小なり彼女たちの気持ちを察し、余計な心配を掛けないようにと転校するという嘘を吐いたのかもしれない。だが、正直にその想いを話してくれなかったという時点で、彼女たちに苦いものが残ったのは確かだった。
そしてそれは鋼が異世界に帰ると知っていた蓮華にも変わらない。彼女達よりも真相を知っている。だが、それは蓮華が元々鋼の事情を深く知っているからにすぎない。鋼と快人の会話を聞いた後には蓮華もそう思わずにはいられなかった。
「くぬぎっち、親友を殺したって言ってたよね。巻き込んだって。だから、快人を幸せにして許されたかった、みたいなさ。多分、その殺しちゃった親友にいた幼馴染っていうのに、私をちょっとは重ねてたかもしれない。でも、快人も私もそんなこと望んでなかった。くぬぎっちに義務感なんて求めたこと一度も無いし、でも、一緒にいて凄く楽しくて……ずっと、三人でいられたらって思ってたんだ、私」
ぽろぽろと涙をこぼす紬に、他の面々は自分を重ねる。
鋼の持っていた感情にもしも義務感や贖罪の気持ちが含まれていたのだとすれば、それはとても悲しい。彼女たちの中にぽっかりと空いてしまった穴、それを形容するのであれば……
「……違う」
「光ちゃん?」
「違う、違うよ! 鋼さんは、あの人はそんな冷たい人じゃない! 凄く不器用で、必死で……ちゃんと紬ちゃんにも、蓮華さんにも、鏡花さんにも、幽ちゃんにも、怜南ちゃんにも向き合ってたはずだよ!」
光は力強く言い切った。その目に大粒の涙を浮かべながら。
「鋼さんは、本当は誰も傷つけたくないんです。ずっと、ずっと、誰かを傷つけて苦しめてしまうのが怖くて、ううん、拒絶されるのが怖かったんだと思います。だから、どんなに繕おうとしても声は固くて、手は震えてて……すごく、不器用で……」
「光ちゃん……?」
「紬ちゃん、それに幽ちゃん、怜南ちゃん、先輩方も……一つ、告白をしてもいいですか?」
「告白?」
鏡花に聞き返され、光は力強く頷く。
「ずっと、ずっと黙ってた……兄さんにも言ったことが無かった秘密があるんです」
「光さん、それはもしかして、貴方が学校を休んでいた間のことにも関係があるのですか?」
「……流石蓮華さんですね。でも、それだけじゃないんです。私が私として生まれるずっと前から、私は……私はずっと、あの人が好きだったから」
光は臆面も無く、一つ告白をする。しかし彼女にとってはもうなんでもないことだ。彼女はその想いを”既に本人に知られてしまっているのだから”。
「私は、あの人を信じたい。だから、みなさんも信じて、託して欲しいんです」
「託すって、何をですか?」
「もしかしたら明日、鋼さんに会えるかもしれません。けれど、あの人は私一人でと条件を伝えてきました」
「あの人……? でも、光さん。彼に、鋼君に会ってどうするの?」
「分かりません。抜け駆けはしないつもりですが」
抜け駆け、という言葉に何人か驚いたように表情を変える。そんな様子が光は少しおかしくて、少しだけモヤモヤしてしまった。勿論口には出さないが。
「でも少しくらい怒ってやっていいと思うんです。だって自分勝手ですもん」
「……ふふっ、そうですね。少しとは言わず、しっかり灸を据えてあげてもいいと思います」
「でも光ちゃん。告白って、それです?」
「ううん、ゆうちゃん。私の告白はまだあります。私にみなさんの想いを託してもらうために、信用してもらうために」
光は目を閉じ、深呼吸をする。気持ちを落ち着けるためというのもあるが、より鮮明に思い出すために。
「私は……私には、綾瀬光とは違う……もう一人の私がいるんです」
そしてゆっくりと語り出した。固く、目を閉じたまま。
うわあああああああああああん!
僕が更新をサボっている間に40000ポイント越えてました!
本当にありがとうございます……ます……。
目指せ50000ポイント! 欲は止まらねぇ……ってことでこれからも頑張ります!




