第110話 なんやかんやで全員集合
親友モブ2巻発売記念で怒濤の連日更新です。
「それで、私を訪ねてきたと」
「ええ。会長なら分かるんじゃないかと」
一同は連れ立って生徒会室に来ていた。これは鏡花の提案だった。
生徒会長なら、鋼が何をしているか把握しているだろうと。
「ここが学生の身でありながらその身に有り余る権力と財力を有し暴利を貪ると悪名高い生徒会の巣窟ですか……!」
「好木さん、そんな愉快な噂は一体どこから得たのですか?」
「お兄ちゃんからですです!」
「お兄ちゃん……ああ、鋼のことですか。なるほど、彼なら確かに言いそうですね」
そう、生徒会長の命蓮寺蓮華は唇を緩める。
「蓮華さん、鋼さんがどちらに行かれたか、本当に知っているんですか?」
「そんなことを言った覚えは無いですが……まぁ、大体は」
蓮華はそう詰まらなそうにスマートフォンを弄りながら言う。そんな彼女らしくない行動に光は少し表情を歪めた。
「不機嫌そうですね?」
「ふふふ、桐生さん。どうも先程から随分挑発的に思えますが?」
「気のせいでしょう、生徒会長」
二人のやり取りはどこか気安さを感じさせた。光と同様にそう感じたのだろう、紬が耳元で囁く。
「仲良いのかな、あの二人」
「少し意外だよね」
「うん。でも似たもの同士なのかな。知らんけど」
「また適当言って……」
そう苦笑しつつも、似たもの同士というのは納得していた。二人ともその能力から周囲に一歩置かれるタイプだろうし、考え方も似ているのかもしれない。
「分かりました。実は綾瀬君が屋上に向かっているのを見たという噂を聞いています」
「屋上……そうですか。ありがとうございます」
「行ってどうするつもりです? 鋼は最期の相手に綾瀬君を選んだ……」
「蓮華さんも、鋼さんのことを知って?」
「ええ。転校、などと言っているようですが」
「言っている……? 本当は違うんですか?」
「綾瀬さん、会って口を割らせれば分かるわ」
鏡花はそう言い、立ち上がる。同様に幽、怜南、そして紬も。
「会長は、どうします? 貴方も彼には言いたいことがあるのでは?」
「……そうですね。不貞腐れていても変わらない……待つと言った手前、あまりに情けなくもありますが」
行きましょう、と蓮華も立ち上がる。そして光も。
「蓮華さん、蓮華さんは鋼さんの……」
「……家族です。私にとっては弟のような……いえ、それ以上の存在です」
「家族……」
不思議と驚きは無かった。
光は、そうですかと小さく相槌を返し、そして連れ立って生徒会室を後にした。
◇
嚶鳴高校の屋上は基本封鎖されている。ここで実際に起きたという話では無いが、世間的に生徒が飛び降りる恐れがあるという意見が広がったことによるものが大きい。
本来鍵が掛けられ閉ざされている筈だが、彼女達がそこに辿り着いたとき、全く別の形で封鎖されていた。
「申し訳ございません、お嬢さん方。ここは現在通行止めです」
一人はメイド服を纏った、どこか印象が薄い雰囲気の女性。
「子どもはおうちに帰る時間だ」
もう一人、燃えるような赤い髪と瞳の現実離れした雰囲気の女性。ライダースジャケットにジーンズ姿という、男性のような、この夏日には暑そうな服装をしていた。
「冥渡さん……? どうしてこの学校に?」
「命蓮寺家から退職させて頂いた後、実は用務員として雇われたのですよ」
「そのような話は聞いていませんが」
「はい、嘘ですから。ただ、雇い主が関係しているというのは事実です」
唯一冥渡と面識のある蓮華がそんな会話を交わす。
「元々私の家で雇っていたメイドなのです」
「メイド……現代日本にもメイドがいるですねぇ……」
「とある町に行けば大量に生息していますよ、好木様」
「ゆ、ゆうの名をっ!?」
「勿論存じております。勿論皆さん全員を。私は冥渡冥、短い付き合いになりますがよろしくお願いいたしますね」
ゾクッと光達の身体に鳥肌が走る。呼吸が苦しくなるような、初めて味わう重たく嫌な雰囲気。それを冥渡が放っているのは明らかだった。
「……そちらは?」
「私は……」
「お久しぶりです、生首の人」
そう一歩前に躍り出たのは怜南。赤髪の女性が僅かに目を細める。
「彼女は変態おじさんです」
「変態おじさん……?」
何故か聞き覚えのあるフレーズに光は背中から汗が噴き出すのを感じていた。
勿論、赤髪の女性におじさんという呼び方はとても似合わないし、男性的な様相は変態と呼ぶには身持ちの堅さを思わせる。
「騙されちゃあ駄目ですよ、皆さん。あの人の正体は脂ギッシュな中年男性なのです」
「……こちらが本体だ」
脂ギッシュな中年男性という言葉に光は頭痛を覚えた。たまに幽が人見知り、内弁慶など自分に不都合なことを言われた際に、「うっ、頭が痛むです……まさか、前世の記憶が……!?」などと訳の分からないことを言って誤魔化すことがあったが、感覚としてはそれに似ているのかもしれない。変態おじさんというワードに刺激されるのは光としても不本意極まりないことだが。
「とにかくお二人とも、そこをどいてくださらない? 不審人物として教師に差しだすこともできるのですよ?」
「それはやめた方がいいと思いますよお嬢様。ここで騒ぎを起こせば彼らにも気付かれてしまいますから」
「彼ら……鋼君達のことね? 元々私達は彼と話しに来たのよ」
「コウと話しても無駄さ、キリュウキョウカ。アイツは臆病者だからな、折角積み上げた決心もお前達を前にすれば崩れるだろう。彼の本当を知りたくはないか?」
赤髪の女性の言葉に鏡花は、他の面々も固まる。知りたいかと言われれば、知りたい。それこそ、今までどれだけ押しても押しても出て来なかった鋼の腹の底に眠った本心が込められているように感じられる。
「案外同性同士というのは気が緩むものです。ほら、恋バナも同性同士でやるものでしょう?」
「おいメイド。なんだその俗な例えは」
「例えというのは自分事化し易い方が腑に落ちるものでしょう、ブラッドさん。カッコつければいいわけではありません」
「誰もカッコつけてなどいない……」
深く溜め息を吐くブラッドだが、その反面、現役女子高生達は納得するように各々頷いていた。
ほら、などとからかうように言う冥渡に、ブラッドは手刀を放つがあっさりと回避された。
「皆様がその気なら、一緒に盗み聞きでもいかがです?」
「盗み聞き……何を企んでいるんですか」
「少なくともコウ達や君らの不利益にはならないだろう。いや、コウは少し痛い思いをするかもしれないが、自業自得だ」
「信じていいんですか」
「信じろとは言わない。だが、このまま盗み聞くか、暴れて本心を得る機会を失うか、どちらの方がメリットに繋がるか考えて欲しいな、カヅキレナ」
「……分かりました」
ブラッドとちょっとした因縁を持つ怜南が真っ先に不信感を示し、そして納得したため他の面々にも同調の意思が生まれる。
「くぬぎっちと……快人の話を聞けるんだね?」
「ええ。このスピーカーをドアに取り付けるとなんと不思議なことにはっきりと声が聞こえるのです。ちなみにこちらの声は向こうに届かないという優れ物。お値段なんと」
「さっさとやれ」
「アイアイサー」
冥渡が屋上のドアにスピーカーを取り付けると鋼の声が聞こえてくる。前半の馬鹿話を終え、彼が過去を話し始める丁度のタイミングだった。
自然と静かになる面々。
そんな中、紬は一人、誰にも聞こえないほど小さな声で快人の名を呟いた。
親友モブの俺に主人公の妹が惚れるわけがない
書籍版2巻が出ました。やったー!
色々見所はありますが、今なにかと僕の中でホットな古藤ちゃんと鋼くんの二人きりの番外編がございます。
二人きりの絡みは何気に初ではないでしょうか。
僕はこの話の着想を得てから、ほぼ初めてぐらい初めて資料集めを行いました。肝いりってやつです。
気になった方はぜひご購入ご検討ください!
また、昨日更新のお願いのおかげでポイントが凄い伸びました……神か、あなた方は。
40000ポインツまであと1000ポインツです。しゅごい。
もしも本作が面白いと思って頂けましたらブクマとか下のポインツ評価とか……ね!
よろしくお願いいたします!!
追伸
感想も貰えると喜びます(強欲)




