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第11話 主人公の変化

 時は移り変わり放課後。


 そう、放課後である。授業なんて特筆すべきことは何もないし、昼休みまたしてもドチャクソチビに絡まれただでさえ苦しい財布事情に鞭打つ羽目になったが、特筆してやりたくない。第一、購買の後輩って微妙に親父ギャクっぽくてダサくない? ダジャレが流行ったのは平安時代までなんだからね。

 え? ダッシュの件? ホラ、あれはもういいじゃん。忘れよう。許してやってよ。メンバーだって謝ってるんだし。


「快人ー、今日放課後どこか寄ってかない?」

「ああ、いいよ」


 隣のクラスから健気にやってくる古藤に快諾する快人。放課後デート決定! 古藤の部活が無い時は大体こんな感じである。


「鏡花もどうだ?」


 さっさと帰り支度を済ませて席を立とうとしていた桐生に快人が声をかける。同時に古藤が少し複雑そうな表情になった。


「ごめんなさい、用事があるから」


 良い子のみんな。お兄ちゃんからアドバイスだよ。世の中には悪い人がたくさんいるんだ。彼女もその一人。口ではごめんなさいなんて言っているけれどアイツ絶対悪びれてないからね。社交辞令感丸出しだからね。本当にヒロインとしての自覚無いな。


「椚木っちもどう?」


 おーっと! 古藤、それは違うだろー!

 おそらく桐生が誘われたことに動揺して、彼女を抑え込むためのカウンターキャラとしての俺に期待したか(十中八九役に立たない)、自身のメンタルケアのためか、俺に声をかけてしまった!

 桐生はあっさり断ったのだから、そのままなら二人デート出来るのに!


「ああっと、俺は……」


 どうしよう。こういう時、どうすればいいかいつも悩む。

 というのも、こと主人公ヒロイン関係の話だと俺は決裁権を持たないのだ。イエスともノーとも言いづらい。今回はヒロインから誘われてしまったのでより対応しづらい。


 これがもし主人公から誘われていれば、付いていくと主人公の鈍感さにヒロインがヤキモキするというヒロイン啓発イベントになる。断れば「おいおいデートかよヒューヒュー! 熱いねお二人さん! 熱いよ! 激熱だよ!」とからかいながらも、下世話なサービス提供が出来るのだけど。


 もしも誘われなかったら? 放課後デートに嫉妬して暴れ狂うが? 理不尽? どこがだよ!!!!!!(逆ギレ)


「ああ、鋼は駄目だよ」


 と、悩んでいた俺を察してか快人は代わりに断ってくれた。が、


「用事があるんだってさ」


 などと続けた。

 ん?用事?


 快人は何を言っているんだろう。俺に用事は無い。仮にあったとしても、そんなことコイツには伝えていない。

 彼の名誉のために断っておくと、彼は基本的に普通だ。そりゃあモテるし、いざという時頼りになる。普段もじもじしている奴が、文化祭の時とかにコアな知識を発揮すると一部からは引かれるが、一部は惹かれる(ややこしい)みたいな感じで、その惹かれるのがヒロインっていう感じで……とにかく何が言いたいかと言うと、快人は他人の予定をでっちあげるような奴じゃないということだ。

 少なくとも、付き合ってきてこんなのは今日が初めてだった。


「そうだよな、鋼」


 まさかの念押し。

 意図が汲み取れないが、有無を言わさぬ目力に、俺はただ頷くしかなかった。


「そっかー、残念」


 古藤の言葉には本当に残念そうな色があって、そういうところは好感が持てる。もっと恋愛にガツガツしてもいいと思うんだけどな。


「……」


 っと、何故か教室の入り口で出ようとする体制のまま足を止めてこちらを見ている桐生がいた。俺と目が合うと、僅かに睨み返してきて教室から出て行った。見世物じゃねぇぞ!


「じゃあ、行こう紬。鋼、また明日」

「じゃあね、椚木っち!」

「お、おう……」


 教室から出て行く二人を見送る俺。うーん、これでいいのだろうか。

 このまま見送っては親友キャラである俺の立つ瀬がない。結局このデートイベントに何の介入も出来ていない。


 だが、待てよ。これは日常イベントの一つでただ好感度上げのためのもの、レベリング中なのかもしれない。そうであれば俺の存在はむしろ邪魔だ。絡むならメインイベントで、と親友モブの教科書にもしっかりと書かれている。


 そうだね、今日は真っ直ぐ帰ろう。たまには早く寝て、健康に14時間睡眠でもしよう。きっと疲れが取れに取れてオーバーライズするほどになるだろう。ナイスな展開だ。









「で、どこに行くんだ、紬?」

「適当に商店街回って……そうだ、今日ご飯作ってあげるよ!」

「おおっ、マジか。助かる!」


 10分後、仲睦まじく、傍から見ればデート中にしか見えない快人と古藤の後方10メートル地点で二人を監視する男の姿があった。

 当然俺である。


「何かあるはずだ。快人が俺をハブろうとするなんて」


 べ、別に突然距離を置かれた感じがして寂しいわけじゃないんだからね! もしも古藤との距離が縮まっているなら、そろそろ「これ、新聞の特典で貰ったんだけど、俺行く相手いないし、お前古藤誘って行けよ……」的な、親友お助けイベントのために今人気のデートスポットとか、回数券の相場とか調べなくちゃいけないってだけなんだから! フンッ!


 思えば、快人のフレンズにツンデレっていないな。古藤は元気で健気なバカって感じだし、桐生はクールな優等生キャラ、未だ未紹介のヒロイン二人もツンデレとは違う。

 ツンデレって一時代を築いたトレンドキャラだったと聞いたが、現代においては使い古された手垢だらけのフンドシって感じで受け悪いのかなー。可哀想。


「っと、本屋に入るみたいだな」


 俺は二人に続いてこっそり本屋に入ると、二人は漫画本コーナーの方に向かっていた。あそこから死角となれば、参考書コーナー辺りが丁度いいか。

 俺は変身セットの一つ、伊達メガネ君1号を取り出し装着し、優等生へと変身を遂げ、参考書コーナーで適当な本を手にする。うんこ……? まぁ、これでいいか。


 立ち読みをするフリをして二人を観察するが、少年漫画を眺めながら漫画談義をしているらしい。別にいいんだけど、色気ねぇなぁ……古藤の欠点として、あまり男女間の壁を感じさせない奴だから友達みたいな距離感で落ち着いてしまうということがある。

 結構男子人気は高いのだが、こと快人においては幼馴染ということもありあまり異性として意識する機会が無いというか……これは悪戯な天気の神様に通り雨を降らしてもらって、「スッケスケのドッキドキ!こんな時に限ってバスがなかなか来なくって……(はぁと)」大作戦を発生させるしかないのではないだろうか。

 生憎、近代化が進み傘なんてコンビニですぐに手に入ってしまうのだけど。それどころか、快人も古藤も折りたたみ傘を常時携帯しているタイプだ。隙がねぇ。


「ぐぬぬ……どうする……」

「ねぇ」

「今話しかけんな。考え事の最中なんだから」

「それ、小学生用のドリルだけど?」

「んあ?って、桐生か……桐生!?」


 なんとっ!? うんこモチーフの教材を読んでいたらあのクール系美少女優等生である桐生鏡花に声を掛けられた!? 用事あるって言ってませんでしたか!?


「な、何お前。まさか、コイツが欲しいのか……!?」

「要らないわよ。言ったでしょう、それ小学生向けの教材だって」

「そ、そうなのか」


 改めて目を通すと、なるほど、うんこをモチーフにした穴あけ漢字ドリルのようだ。下ネタが大好きな子供たちと大きなお友達には人気が出そうだ。語呂で覚えるタイプの「解人二十問答VS明知五語呂シリーズ」に通じるものがある。


「で、クズのくせにどうして本屋に? ここは絵本コーナーじゃないわよ?」

「俺の精神年齢低く見積もりすぎじゃね?」

「漢字読めないでしょうに」

「読めるわっ!」


 小学生向けドリルを手にしている今は説得力無いかもですけどっ!

 っと、あまり騒いでいると快人たちに見つかる。


「桐生、話は後だ」

「話? 貴方みたいなクズと話すことがあるとでも?」

「へーへー、そうですね。それじゃあここで」


 さようなら、という感じで自然に逃げることが出来そうだ。ヒロインと遭遇した時はどうしようかと思ったが、結果オーライ。さっさと退散するとしよう。


「待ちなさい」

「ん?」

「……いいわ。聞いてあげる。その話というのを」

「んんん?」

「丁度いいわ。そろそろはっきりさせましょう。私とクズ……いいえ、椚木鋼の関係をね」


 何だか不穏な流れになってきた。

 今までにない桐生から漂う圧に、俺はただ頷くしかなかった。

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