表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

19時発エクスプレス【習作】

作者: ヨシカワアオイ


先輩が失踪してから、もうすぐ1年になる。


僕が先輩とはじめて話をしたのは、僕が入学してしばらくのことだった。


「相席いいかな。」


最初は、そんな他愛のない一言からだった。




1.先輩


特に食事を共にする友人もいなかった僕は、よく先輩に相席を申し出られた。


はじめこそ、そそくさと学食を後にしていたがしばらくすると会話をするようになった。


「きみは良いな。自分の好きな学問を専攻できるのだから」


先輩は御家の都合とやらであまり自由ではないそうだ。


「まあ、人の金で学んでいる身だ。仕方ないさ」


そう話す先輩はどこか寂しそうだった。


先輩とは宗教学の話もした。


僕の専攻は経済学その他諸々。将来は喫茶店を営みたかった。


余った枠で宗教と民族学を趣味で取っていた。


先輩は宗教と精神の関わりについて深く関心を持っていた。


先輩は御家の都合で医学の勉強をしていた。


先輩の両親は幼い頃に他界し、世継ぎに望まれなかった親戚の家に預けられたそうだ。


育ての親には感謝しているから、反抗する気にはならないらしい。


先輩は天国や地獄があるのなら、それはどんなところなのかという議論を好んだ。


夢があるのはイスラムの天国。


自分が体験するなら中国の天国。


キリストの天国は待ち時間が長そうだと二人で話した。


いま思えば、先輩は天国への近道を探していたような気がした。



2.自宅


学食で先輩を見かけなくなってしばらく、警察を名乗る男性2人が僕の元へ訪れた。


僕は、そこではじめて先輩が行方不明なのを知った。


先輩は友達が少なかったようで、ほぼほぼ僕としかコミュニケーションを取っていなかったらしい。


僕は誘拐の容疑者として取り調べを受けた。


でも、それもすぐに解放された。そもそも動機がない、失踪したと言う日のアリバイもある。


後日、先輩の家に呼ばれ両親から謝罪されたが、それは外面を取り繕うためだけのものだとわかった。


もしかしたら、先輩から聞いた話で色眼鏡が掛かっていたのかもしれない。


僕は先輩の両親に頼んで先輩の自室を見せてもらった。


先輩らしい素朴な部屋だった。


部屋の中を見て回って先輩の手帳を見つけた。


手帳には見慣れたメモが挟んであった。


いくらか前に先輩に贈ったメモだった。


いつもの世間話の時もメモに使ってくれていた。


先輩にしては荒れた筆跡で走り書きのメモが残されていた。


「 10/6 19:00発 竹屋駅2番ホーム 」


僕には、なぜかそれがとても大事な物のように思えて。隠すように持って帰ってしまった。



3.19時発エクスプレス


メモに書かれていた駅は千葉にある中規模の駅だった。


何度か訪れて先輩を探してみたりもした。


駅員にメモにある19時発の電車について訪ねたこともあったが、19時に2番線に入る電車は無いそうだ。



今日は10/6。



あのメモにあった日。



時間は19時すこし前。



ホームには特急通過のアナウンスが流れている。





ーーーおわりーーー

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ