表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日めくりカレンダー  作者: 流美
4月の日めくりカレンダー
94/294

ココア

 汗がじんわりと背中を濡らす。上着を脱いで、裾をぱたぱた扇ぐ。扇子を持ってくれば良かったと後悔するお昼頃。私は友人と遊ぶ為に、友人宅に向かって長い坂道を歩いている途中だ。


「あーーーー暑いーーーー」


 口を開けば暑いしか出てこない。今頃家で準備をしている彼奴は、冷房の効いた部屋で涼しい思いしてるんだろな。無性に悔しい。歩きたくない。

 片道、徒歩1時間の道のり。別に今日が最高気温25度なんて暑い日じゃなければ、これくらいの道は苦じゃなかった。でも、私は夏生まれのくせに誰よりも暑さに弱い。夏になるとかなり弱体化する。それくらい暑いのが無理。


「ほんと無理ーーーー!!」


 隣を通っていく車の音に、叫び声はあっさりかき消される。そのほうが恥ずかしくないんだけどね、と思いながら、叫んでも当然消えない暑さにイライラした。

 4月に入ったばかりでこの暑さ。一体、真夏日はどうなってしまうのか。最高気温60度超えるってマジで。地球温暖化を進めた奴誰だよ、まったく。地球温暖化が進んでない時代に生まれたかった。

 何をどう考えてもどうしようもないことは重々承知の上で、とにかく誰かにこの暑さを擦りつけたい。イライラを擦りつけたい。本気で誰かどうにかしてほしい。どうにかしてくれるなら一生奴隷になってもいいよ。


「はぁ……あとちょっと…………」


 坂の上に友人の家が見えてきた。あと5分もしないうちに着く。友人に会ったらまずは、近くの自販機までココアを買いに行ってもらおう。暑さを思い知れ。

 くだらないなぁ、暑さで頭やられてるなぁ、なんて自分で思って苦笑いして。むしろ友人宅が涼しいことを願ってラストスパートをかける。友人が涼しい環境にいるであろうことに対する悔しさよりも、今はもう、友人宅が涼しいであろうことが唯一の希望だった。


「は……着いた……!」


 ざまぁみろ太陽。やっぱり頭おかしいなぁって再三思いながら、インターホンを押す。友人は待ち構えていたかのように、すぐ出てきた。


「お、やっと来たか。お疲れー」


 タンクトップに短パン、それから片手にアイス。4月とは思えない……というか、気温30度の真夏日みたいな格好の友人。手招きされて、素直に従う。

 玄関を一歩お邪魔した瞬間に体を包む、圧倒的な冷気。冷房付いてたことに大きな喜びを感じ、一気に心が軽くなった。さっきまでの苦痛が嘘のよう。


「座って待っててー」


 リビングでテーブルの側に座り、背伸びをして涼しさを堪能する。もう何もしたくない。キッチンに行った友人は、すぐに戻って来た。


「はい、お疲れ」

「つめたっ!?」


 汗のかいた首筋に、ぴと、と冷たいものが当てられる。体が跳ねて、反射的に振り向いた。楽しそうに悪戯な笑顔を浮かべる友人の片手には、アイスじゃなくて、缶が握られていた。


「飲むでしょ」


 テーブルにそっと置かれたその缶は、アイスココア。奪うように、手に取った。そして開ける前に迷わず頰に当てる。冷たすぎて、ちょっと痛い。でも、関係ない。


「ありがとぅぅぅぅ! 信じてた!」

「何をだよ」


 失笑する友人を他所に、缶を開ける。カラカラに乾いた喉に一気に流し込み、胸いっぱいの幸せに溜息を零した。ココアの濃厚な甘さが、口から喉からお腹から、全身に広がっていく。ついでに冷たさも。


「そんじゃ、ゲームするぞ」

「おー!!」


 ココアを飲み干し、勢いよく缶を置いた。すっかり涼しくなった体は、もう暑さを忘れていた。テレビゲームを付け、友人から手渡されたコントローラーを握りしめる。

 よし、あとでもっかいココア飲も。

 季節外れの暑さも悪くないと一瞬だけ感じた。それは、友人のココアのおかげ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ