遅い
彼女が浮気をしていると知っていたら。
僕はきっと激怒した。
でも本当はそれが一番彼女のためだった。
彼女を守るには力不足だと、気付くのが遅すぎた。
彼女が居なくなってしまった先日。彼女が帰ってきた昨日。彼女を抱き抱えてるのは知らない男性で、僕は隣にいなかった。
勝ち誇ったような笑みを含めて、男性は何も言わずに去っていった。お互い一言も交わしていないし、お互い初対面だった。だけどお互いに敵で、僕はもう負けたのだと分かってしまった。
彼女の両足は無くなっていた。その時は何一つ知らなかった。後日親から回ってきた伝言は、両足に何らかの異常があり両足を失った。それだけだった。
だったそれだけ。見知らぬ男性のことには一切何も触れられず、僕の心に急に穴をあけられてしまった気分だ。
彼女が一番苦しかったとき、僕は隣にいなかった。
彼女にとってそれは十分な理由で、いくら僕が彼女の容態に気付かなかったとしても。彼女が居なくなった本当の意味を知らなかったとしても。彼女を責められない。僕は、彼女の苦しい時に側にいなかった。それだけの事実で十分なんだ。
彼女の側にいられなかったことを悔やんでももう遅い。僕が彼女を救うには、あまりにも無力だった。




