表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日めくりカレンダー  作者: 流美
3月の日めくりカレンダー
73/294

50万円の女友達

 俺の女友達に、カラオケに呼ばれた。相談があるから2人で会いたいと言われ、じゃあカラオケでも行くかとつい昨夜、話した。もう大人になる男女が密室で2人きりというのは、一般的に危ないことではあるのだろうが、女友達は彼氏持ちだし、俺は俺で女友達を襲いほど理性がないわけがない。

 カラオケに着くと、既に女友達は待っていた。待ち合わせの5分前。いつから居たのか問うと、ついさっきだと答えられた。


「んで、相談って何?」

「私の、彼氏のことなんだけど」


 少し会わない間に、その女友達は随分やつれていた。目の下には堂々と隈ができ、声も弱々しい。

 これはかなり深刻な相談っぽいなぁと、真剣に受け止める。女友達の反対側に座った俺は、真っ直ぐに目を見た。


「私の彼氏のね、お母さんが入院して、手術代で150万円必要なんだって」

「うん、それで?」

「100万円は用意できてるけど、あと50万円足りないからどうにか貸してくれないかって頼まれてるの」

「……うん」

「でもね」


 はぁー、と重い溜息をついた女友達は、そこまで言って、奥深い微笑みを浮かべた。悪い予感しかしない。それでもここで遮るわけにはいかない。女友達の続きの言葉を待つ。

 もう一度、重い溜息をついた女友達は、やはり奥深い笑みを浮かべる。そしてゆっくりと口を開けると、苦しそうに言葉を紡いだ。


「今までに何回も同じこと言われててさ。お金無くて、どうしたら良いかなって」

「…………なぁ、それって」

「いいよ、正直に言って」


 何かを諦めたように俺に微笑む。今にも泣きそうな目元は、見ている俺の胸を締め付けてくる。吐き出しても吐き出せない、心の中の苦しみを言葉にするように、俺は問いかけた。


「それって……騙されてる、んじゃないか……?」

「――やっぱり、そうだよね」


 はは、と力無く笑う女友達。もう女友達は分かっていたらしい。流石に、そこまで馬鹿じゃないというか。じゃあ何故、別れないのか。このままいても、不幸になるだけであろうに。


「なんで別れないのかって思ってるでしょ」

「お、おぉ……思ってる」

「貴方には分からないと思うけどね。私、利用されてでも、あの人の隣にいたいの」


 それくらい好きなんだ、と女友達は続けて言った。それは嘘の欠片もない、心からの言葉のようで、俺はそれ以上何も言えなかった。女友達はもう話すことをやめて、曲を予約し始める。俺のことを放置して、歌い出した。その声は、震えていた。


 好きだった人を、抱き締められない。この無力な両手が、恨めしくて、悔しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ