50万円の女友達
俺の女友達に、カラオケに呼ばれた。相談があるから2人で会いたいと言われ、じゃあカラオケでも行くかとつい昨夜、話した。もう大人になる男女が密室で2人きりというのは、一般的に危ないことではあるのだろうが、女友達は彼氏持ちだし、俺は俺で女友達を襲いほど理性がないわけがない。
カラオケに着くと、既に女友達は待っていた。待ち合わせの5分前。いつから居たのか問うと、ついさっきだと答えられた。
「んで、相談って何?」
「私の、彼氏のことなんだけど」
少し会わない間に、その女友達は随分やつれていた。目の下には堂々と隈ができ、声も弱々しい。
これはかなり深刻な相談っぽいなぁと、真剣に受け止める。女友達の反対側に座った俺は、真っ直ぐに目を見た。
「私の彼氏のね、お母さんが入院して、手術代で150万円必要なんだって」
「うん、それで?」
「100万円は用意できてるけど、あと50万円足りないからどうにか貸してくれないかって頼まれてるの」
「……うん」
「でもね」
はぁー、と重い溜息をついた女友達は、そこまで言って、奥深い微笑みを浮かべた。悪い予感しかしない。それでもここで遮るわけにはいかない。女友達の続きの言葉を待つ。
もう一度、重い溜息をついた女友達は、やはり奥深い笑みを浮かべる。そしてゆっくりと口を開けると、苦しそうに言葉を紡いだ。
「今までに何回も同じこと言われててさ。お金無くて、どうしたら良いかなって」
「…………なぁ、それって」
「いいよ、正直に言って」
何かを諦めたように俺に微笑む。今にも泣きそうな目元は、見ている俺の胸を締め付けてくる。吐き出しても吐き出せない、心の中の苦しみを言葉にするように、俺は問いかけた。
「それって……騙されてる、んじゃないか……?」
「――やっぱり、そうだよね」
はは、と力無く笑う女友達。もう女友達は分かっていたらしい。流石に、そこまで馬鹿じゃないというか。じゃあ何故、別れないのか。このままいても、不幸になるだけであろうに。
「なんで別れないのかって思ってるでしょ」
「お、おぉ……思ってる」
「貴方には分からないと思うけどね。私、利用されてでも、あの人の隣にいたいの」
それくらい好きなんだ、と女友達は続けて言った。それは嘘の欠片もない、心からの言葉のようで、俺はそれ以上何も言えなかった。女友達はもう話すことをやめて、曲を予約し始める。俺のことを放置して、歌い出した。その声は、震えていた。
好きだった人を、抱き締められない。この無力な両手が、恨めしくて、悔しかった。




