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日めくりカレンダー  作者: 流美
3月の日めくりカレンダー
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これが私の幸せなので


「おかえり、遅かったね」

「……ごめんなさい、医者にいろいろ聞かれちゃって」

「そう。何を聞かれたの?」

「…………傷のこととか」


 あまりの腹痛に病院に行ってきた私は、帰宅直後、同棲している彼に問われた。にこにこと、優しくて可愛い笑顔を見せている。だけどその笑顔と何の違和感もない声色が、私の肺を掴んでいるように息苦しい。


「言ったの?」

「何も言ってないです……」

「そっか。いい子だね」


 一歩迫ってきた彼は、その骨張った大きな手のひらで、私の頭を包み、割れ物を扱うように撫でてきた。彼の手のひらの温かさは心からの安堵をもたらし、詰まっていた呼吸を回復させた。自然と頰が緩み、ありがとうと答える。


「はい、じゃあ脱いで」

「…………えっ……?」

「今すぐそこで、全裸になれって言ってるの。ほら早くして」


 だけど態度は一変、蔑んだ目を一直線に私に向けてきた。また私の息はか細くなり、体は思うように動かず、彼と目を合わせるのが精一杯だった。彼は許してはくれない。


 乾いた音を玄関に響かせた彼。頭が揺れる衝撃と、耳を劈くその音で、視界が一瞬白く光った。じわじわと頰から熱い痛みが伝わってくる。


「ねぇ、俺が待つの嫌いだって知ってるよね。お前は俺の何だっけ? 分かってる? まさか、もう忘れたの?」

「忘れて、ない、です……」

「じゃあ何? 言えよ。分かってんならすぐ言えんだろ」


 勢いよく掴まれた胸倉。思わず咳き込みそうになったのを無理やり耐えて、彼と交えた視線をどうにか外さないようにする。ここで視線を外してしまえば、更にどうなるか分からない。震えた言葉を、絞り出す。


「私は、貴方の……」

「あなた?」

「……ご主人様の、ペット、です……」

「そうだよな、俺のペットだよな。じゃあなんで反抗してんの? 俺の命令に逆らうようなクソ犬だったの?」


 必死に首を振って否定する。ようやく離された胸倉。同時に私は、上着のボタンに手をかけた。焦りすぎて滑ってしまいながらも、次々に外していく。


「ねぇ」


 黙ってその光景を見ていた彼が、不意に声をかけてきた。すぐさま反応して、顔を上げる。上着をその場に落とし、半ズボンのチャックに手をかけたところだった。

 私と再び視線が交わったのを確認すると、彼はうっすらと笑みを浮かべた。


「逃げたいと思わないの?」

「…………はい」









「これが私の幸せなので」

この2人はこういう関係です。お互い本物の幸せです。何かを批判したりしているわけではないことをご理解ください。

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