冬
「寒い。寒い寒いさーむーいーっ!」
「なんだよー?」
私から少し離れたところに座る彼が、笑いながら問いかけてくる。その瞬間に、ここぞとばかりに距離を詰めた。ぴったりとくっついて、両手をすり合わせ、必死に暖をとる。
「そんなに寒い?」
「寒いよ! めっちゃ寒いよ!? ほら私の手、真っ赤だよ!!」
「暗くて見えないよ」
両手を彼の前に広げるが、また笑って、流された。触ってみてよと私も笑うと、彼はそっと手を重ねた。おぉ、と驚いた反応をした彼は、またまた笑った。
「手、めっちゃ冷たいね。本当に寒いんだ」
「だから寒いって言ってるでしょー!」
2人で笑って、とある人を待つ。それは恋人。……勿論、彼の。私に恋人はいない。当然、私は彼が好きだから。だから彼が寒い中彼女を待っていたりすると、どんなに胸が締め付けられても、一緒にいたくて、つい声をかけてしまうんだ。
「あ、部活終わったって」
「今日は……早いんだね」
「そうみたいだね、迎えいかなきゃ。一緒に待ってくれてありがとうね」
「――どういたしましてっ!」
スマホに目を向けた彼は、立ち上がってゆったりとした笑みを見せる。幸せそう。私の気持ちなんか、何一つ知らないんだろうな。
またね、と手を振る。彼も、また明日ね、と手を振る。それだけだ。彼はもう、こちらを振り返らない。
夕闇に消えてく彼の背中。苦しくて苦しくて、出そうで出ない涙。ぼやけていく視界の中に、君の笑顔が浮かんで消えた。




