敗因:意思が貫けなかったこと
街を歩けば、ぽつぽつと咲いた梅が目に入る。そんな季節。明日、僕は高校を卒業する。
朝起きて、高校生活最後の制服に身を包み、朝ご飯を食べて、いつも通りの登校をした。高校生活最後の朝のHRを終え、廊下に並ぼうと席を立った。
「拓海! 卒業式終わったらお昼ご飯一緒に食べにいこーよ!」
「美佐。いいよ、帰っても暇だし」
昨日の放課後、美佐にベランダに呼び出され、告白された。1番仲の良い女友達で、恋愛対象として見ていないわけではなかった。
僕は結局付き合うことを選択したが、その選択までに少しの時間を要した。僕には、2年間片想いしている後輩がいた。諦めたかったわけじゃないし、二股してやろうなんて思いで付き合ったわけじゃない。
ただ、卒業が近づくにつれてその後輩は僕のことを明らかに避けるようになっていた。好かれるどころか嫌われたんだなと思った瞬間、熱していた気持ちが嘘のようにそっと冷めた。
付き合えるなら付き合いたかった。だけど告白する勇気は僕になかったし、後輩は避け出すし、落ち込むどころか何かを悟ってしまったような気持ちになるし、付き合える余裕も度胸も想像も、何もなかった。それで僕は、美佐と付き合う道を選んだ。
一人一人名前を呼ばれ卒業証書を受け取って、校長先生の有難くないお話を聞き、来賓祝辞などと言う偉い人からの言葉を聞き……途中で意識が飛びそうになりながらも、なんとか卒業式を乗り切った。
退場した瞬間に、安堵したような表情を見せる人が大半だった。だが中には泣く人や、まだ寝ているのでは、という人もいる。
教室に戻り、高校生活最後の担任の先生からの話を聞き、全員で担任の先生にお礼を告げて終わった。途端、スマホが振動する。
別のクラスの男友達だろうかと疑問に思いつつ、スマホをポケットから取り出す。そして来ていた通知を見て、自分の不甲斐なさを最悪に思うのだ。
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――香織です。C棟4階で先輩のこと、待ってます。
3月なにがあるかなぁと考えたら、そういえば本日、母校が卒業式でした。
卒業式おめでとうございます。




