殺人者じゃないのに
クラスで人気者の、可愛くてオシャレな女の子に呼び出された。教室がざわつき、あちこちから噂話がたつ。6年1組から正反対の場所にある、たまぁに使われる教室に、僕はその子と並んで向かった。
「なんで呼んだの?」
「分からないの? 鈍感なんだね」
ふふ、と小悪魔のように笑ったその子。心臓がどきどきと煩くて、その子の目をまともに見ることができない。手汗がいきなり出てきて、握りしめた拳が湿っぽい。
「あのね」
「……うん」
その子はかなり言いにくそうで、無理やり吐いた溜息のような声だった。静寂に包まれているこの教室が、とにかく居心地悪い。その子の次の声まで、時間の流れが遅くなっているような錯覚に陥る。
「好きです」
顔が紅潮していくのが分かった。足や手が小刻みに震えて、ふざけるなと言い返してやりたかった。そんな声は、僕は持ち合わせていないけど。
「ごめん、戻る」
「……だよね」
その子は僕のこと、小学4年生までずっと虐めていた。学校が楽しくなくて、何回も休んだ。だけど次第に休むと虐めが悪化することに気付いて、休むこともできなくなった。
許せるわけがない女の子なんだ。
その子を置いて教室を出る。悔しいような、寂しいような、忌々しいような、変な感情を抱いたまま、廊下をとぼとぼと歩く。途中でトイレに寄って、1組の教室に戻った。
窓の外を見ているクラス全員。戻ってきた僕に気付いたクラスメイトが、僕を指差して声を張り上げた。
「きたぞ、殺人者が!」
聞いた話によると、僕が教室を出てすぐに、彼女は窓から飛び降りたらしかった。




