51/294
待ってる
僕の目の前で落ちた。最後まで僕と目を合わせたまま、背中から、彼女は空を飛んだ。その光景はどうにもスローモーションに見えて、なびいた髪が太陽の光で綺麗に輝き、空に伸ばされた華奢な指先は踊っていて。
悲鳴ひとつあげなかった彼女は、ただ一言残していた。
「あっちで待ってるから」
すぐ行く、とも、行かない、とも答えられなかった。答える間も無く彼女は落ちていったのだ。
下で大勢の悲鳴が聞こえた、ような気がした。そろそろ行かなきゃ、うるさい奴等が来てしまう。
「今行くよ」
俺もさっきの彼女のように、背中から空を飛ぶ。ちゃんと彼女の元に行けるだろうかという不安もあったが、きっと大丈夫だ。
すぐに、あの世で会おう。




