大人になりたい
「大人になって、それから君はどうするの?」
大人になりたいと溢した私に、貴方は冷めた目で問いかけた。なにかを諦めた目。なにかを訴える目。
私は貴方の、そんな目が大嫌いだった。
「そうだね、どうしようかな」
どうしようかなんて決まっていた。大人になって、力とお金を手に入れて、そしたらきっと……きっと貴方にまた会えるから。
貴方は車椅子に深く座って、細めた目を逸らすことなく私を見つめてくる。膝にかけられた毛布は、頼りなく、少しの風で大きく揺れていた。
「君は大人になんてならなくて良いよ」
哀しそうな声色で、貴方は私に呟いた。意図は分からない。それなのに胸の奥がぎゅっと掴まれるようで、私の意思があっという間に曲がりそうだ。
どういう意味かは聞かない。聞いても答えてくれないような気がした。気にはなるけど、それは確かに、貴方の心からの言葉だと感じた。
しかし私はそれでも、貴方と一緒に大人を過ごしたい。例え将来、作ることに成功したとしても、それは決して本物では無い。分かっている。
作られた貴方は、貴方であって、貴方では無いのだ。分かっているけど。分かっているんだけど。
……貴方を子供のままで終わらせたくない。
「私は、大人になりたい」
*
大人になるまでに死んでしまう貴方は、私と一緒に子どものままでいたいと願う。私と一緒に生きていたい。
だけど私は大人になって、どこも悪くない貴方として復活させ(作り上げ)、一緒に大人を過ごしたいと願う。例えそれが本当の貴方ではなくても、貴方を大人にしてあげたい。
そんな思いの2人のお話。