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静かな口付け
眠っている君の唇に、唇をそっと重ねる。触れるか触れないかくらいに、そっと。繊細なものを扱うように扱わないと、人はすぐに壊れてしまうから。
「君が寝ているだけで部屋はこんなにも静かで、広く思えるんだね」
当然、返事はこない。ただの独り言。静寂の中に僕の声だけが響いて消えた。さっき寝たばかりの君は、既に深い眠りに入っているようだった。
「僕、シャワー浴びてくるね。汚れちゃったからさ」
もう一度、君の唇に唇を重ねた。今度はさっきよりも深く、長く。ゆっくりと離れて、起きることのない君の姿を嘲笑い、浴室に向かう。
もうこれで僕の元を離れられないね。
嬉しいよね?
後で君のことも綺麗にしてあげるからね。




