「ずっと隣にいてね」
あの日あの時あの場所で。俺の隣にいたお前は、もういない。温もりを与え、与えられ、日々を過ごしていたお前は、もう、帰ってこない。
ずるいよな、それってさ。残された俺は、どうしたらいいのさ。
「ずっと隣にいてね」
そう言ったのは、お前からだったのに。お前がいなくなったら、隣になんていられないに決まってるだろ。なんで、なんでいなくなるんだよ。
悔しくて、辛くて、苦しくて、痛くて、悲しくて、寂しくて、あぁなんかもう、頭も心も体も、何もかもが追いつかない。
分かってる。こんなこと思ったら、ダメだって。お前は一切望んでないだろうって。分かってるんだ。だけどさ。
他の誰かじゃ、駄目だったんかな。
まだこれからだったよな、俺らさ。付き合ってやっと3年目で、俺ようやくさ、結婚のことも考え出してさ、それで、それで俺さ、俺。俺さ……。
婚約指輪、買ってきたんだよ。お前に絶対似合うって自信持って言える。そんな指輪、買ってきたばかりなんだよ。
おかしいだろ。なんで受け取ってくれないんだよ。ちゃんと受け取ってくれよ。喜ぶ顔、見せてくれよ…………。
――棺を静かに、丁寧に開ける。花に埋もれた白くて細い手をとると、ポケットから指輪を取り出した。
「結婚、して下さい」
ゆっくりと指輪をはめた。そっと花の中にその手を戻し、棺を閉じる。もう二度と、歯を見せて笑わない表情に目を移す。
お前はどうして、そんな幸せそうな顔で眠ってるんだよ。
行き場の無い想いの数々は、涙となって流れていった。




