犯罪者は伝えられない
泣きじゃくりながら、細い上目遣いで僕を見つめる君。どうして、と問いかけてくる言葉は、途切れ途切れになって、全く聞こえない。
「ごめんね」
嘲笑って、見下す。何の感情も無い。隣に立つ女性の腰に手を回し、見せつけるようにキスをしてみせた。君はもうとっくに、怒りなどは通り越していた。
「ま、こんな訳で。早くどっか行ってくれる?」
微かに君の首が横に振られる。本当に微かだけど、絶対的な拒否。僕は思わず溜息を溢してしまった。
ぎゅっ、と君の体が固まったような気がした。僕の溜息に、何をそんなに怯えているのか。また思わず溜息を溢したら、君はまた泣き出した。
「なら、いいや」
無表情で目線を落としている、隣の女性の手を取り、早足にその場を後にする。君のことはもう見ない。振り向く気はさらさら無かった。
「――良いのかしら? あんな別れ方」
「良いんだよ。あぁでもしないと……」
「……あぁでもしないと?」
君は僕の大好きな彼女だ。
ただ僕が、犯罪者になんてならなければ。
「……僕のこと、嫌ってくれないだろ」
「あら……優しいのね」
ポケットの中で握りしめられた小型ナイフの柄。右腕にべったりとくっついてくる女性を思い切り睨みつけて、気付かれる前に笑顔を繕った。
「さ……僕の家においでよ」
「大胆ね……ウフフ」
――私と結婚してくれないなら、アンタの彼女、殺すわよ。
先日言われた言葉を思い出して、更に力強く小型ナイフの柄を握りしめた。何故ここまで執着されないといけないのか。僕は何もした記憶は無いのに。
この……
「ストーカー女……」
つい漏れてしまった呟きは、耳にはされてなかったようだ。
ごめんね。君のこと、ずっと大好きだよ。