レンタル
「はい、毎度ありがとうございます。レンタル家族になります」
「は、初めまして……大野雪です……」
「雪ちゃんね、初めまして。俺は晴山蓮。お兄ちゃんです」
私は生まれて初めて、兄というものをレンタルした。
一人暮らしを先月始めた私は、家族の愛というものに今なら触れられると考えた。幼い頃から、暴力を振るってくる兄の存在と、それを見て見ぬ振りする母親の存在だけが、私の家族だった。
大嫌いで仕方なかった。兄のことは殺したいくらい。母親はもう、諦めている。関心がない。
「蓮さん……今日は一日お願いします……」
「はい、お願いします。俺のこと、好きに呼んでくれて良いからね」
最近流行っている、レンタル家族。数年前からブームになって、何度かテレビでも扱われていた。ブーム当時から変わらず、今でも熱い話題のひとつとなっている。
「わかり、ました……」
「んじゃ、ちょっと出掛けようよ」
ぽん、と頭に手を置かれ、笑顔を見せられる。どこに、なんて聞く間も無く、私の手は強引に引っ張られた。
温かくて、大きな手。少し骨張ってて、頼り甲斐のある手。私を叩くだけの手とは違う。
どうにも嬉しくて、顔の筋肉が緩む。例えこれが、一日限りの幻だとしても。
私はお兄ちゃんの温かさに、触れていたい。




