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日めくりカレンダー  作者: 流美
2月の日めくりカレンダー
34/294

レンタル

「はい、毎度ありがとうございます。レンタル家族になります」

「は、初めまして……大野雪です……」

「雪ちゃんね、初めまして。俺は晴山蓮。お兄ちゃんです」


 私は生まれて初めて、兄というものをレンタルした。

 一人暮らしを先月始めた私は、家族の愛というものに今なら触れられると考えた。幼い頃から、暴力を振るってくる兄の存在と、それを見て見ぬ振りする母親の存在だけが、私の家族だった。

 大嫌いで仕方なかった。兄のことは殺したいくらい。母親はもう、諦めている。関心がない。


「蓮さん……今日は一日お願いします……」

「はい、お願いします。俺のこと、好きに呼んでくれて良いからね」


 最近流行っている、レンタル家族。数年前からブームになって、何度かテレビでも扱われていた。ブーム当時から変わらず、今でも熱い話題のひとつとなっている。


「わかり、ました……」

「んじゃ、ちょっと出掛けようよ」


 ぽん、と頭に手を置かれ、笑顔を見せられる。どこに、なんて聞く間も無く、私の手は強引に引っ張られた。


 温かくて、大きな手。少し骨張ってて、頼り甲斐のある手。私を叩くだけの手とは違う。

 どうにも嬉しくて、顔の筋肉が緩む。例えこれが、一日限りの幻だとしても。


 私はお兄ちゃんの温かさに、触れていたい。

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