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日めくりカレンダー  作者: 流美
2月の日めくりカレンダー
33/294

心の景色

 私は昔から、よく気を失った。

 というと聞こえが悪い。私は昔から、ふと頭がぼんやりとして、いろんな景色が見えることがあった。


 最初の頃は、綺麗な景色だなぁとか、枯れた木ばかりだなぁとか、何も考えずに景色を楽しんでいた。何か重要な予定がある日は、今日は景色が見られませんようにと願ったりもした。

 コントロールすることはできないけれど、それはいつのまにか日常の一部で、見られることを楽しみにしたり、見てしまうことを不安に思ったりした。


 だけど最近の私は、景色に意味があるのではないかと考え始めた。景色を見られる条件があることに気付いたから。

 その条件というのが、誰かと対面して会話している時。たったそれだけ? と思うかもしれないけど、私が一人でいる時に景色を見たことは無い。必ず誰かが目の前にいる時だけだった。


 じゃあ景色の意味はなんだろうと考えてみて、すぐに気付いた。今まで気にしなかったせいで全く分からなかったけど、考えてみると案外分かりやすいものだった。

 私が見る景色は、相手の心の中なんだ。


 決定的になったのは、湖の周りに枯れ木が生えた景色を見たとき。湖は澄んでいてとても綺麗だったけど、木は葉っぱ一枚もついていなくて寂しそうだった。

 そんな景色を見たときの相手は、酷く疲れていて。「独りで何か頑張りすぎてない?」って問いかけたら「よく分かったね」と苦笑いされた。

 でも近々、遊びに行くから、それまでもう少しだけ頑張るよ。

 そう、相手は言うだけだった。やっぱり景色は相手の心の中なんだなと気付いたときに、私は今までに見た景色を後悔した。


 何もない雪山。暗い森の中。誰もいない砂浜。

 今まで見た景色の中で、どれだけの人が苦しんでいたのか。どれだけの人に声をかけられたのか。そう考えてしまうと、自己嫌悪でいっぱいになる。




「あず、また何か考えているの?」

「あ…………真里。うん、考え事してた」


 親友が声をかけてくれて、はっと我に返った。いつもいつも迷惑をかけてしまって申し訳ない。ごめんね、と謝ろうとしたところで、また頭がぼんやりとする。いつも景色を見ている、あの感覚。


――だけど何も見えない。なんの景色も見えなくて、実はただ本当に頭がぼんやりとしているんじゃないかと疑わしい。

 夢を見ているときみたいに、私はそこにいるような感じがするのに、何も見えない。目隠しして歩いている、頼りない感覚と言えば近いか。


「ねぇ、あずってば」

「…………あっ、ごめん。またぼーっとしてた」


 親友に肩を叩かれ、また我に返った。ごめんと両手を合わせて、なんだったんだろうという疑問は心にしまっておく。

 珍しくカフェに誘われ、喜んで付き合う。いろいろとお喋りをして、お腹を抱えて笑った。

 その、翌日だった。





 親友は自殺して、この世から消え去った。

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