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ヒーロー
ヒーローになりたかった。
小さい頃からの夢で、ずっとずっと、ヒーローになりたかった。
なれると信じて、疑わなかった。
ヒーローは正義の味方。
悪い奴とは戦って、弱き者を救って生きていく。
それがヒーロー。
赤い衣装に身を包んで、正体は明かさないと、もっとかっこいい。
でも本当の世界では、ヒーローになんかなれっこなかった。
みんなから「ヒーロー」って呼ばれて慕われる存在とは、程遠い。
みんな私のことを「気持ち悪い」って言って、ばい菌扱いをする。
ヒーローがいじめられた時、誰が助けてくれるのだろうと思う。
ヒーローは誰かのことを助けられても、誰かはヒーローのこと、助けてはくれない。
ヒーローって孤独なんだって。
意思だけじゃ誰も救えない。
行動力と、それに伴う勇気と、力。
ヒーローになりたいと思ってなれはしない。
そして、気付いたところで何もできない。
私は無力で、ヒーローになんかなれないんだって。
いじめられっ子がヒーローなんて、かっこ悪いから。
だけどね、許されるならね。
誰か一人だけで良い。
私は誰かのヒーローになりたい。




