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風に吹かれて
――チリンと音がした、ような気がする。
音の姿を見るために、立ち止まって、ゆっくりと振り向いた。辺りには小さなお店が一軒。他には人が住んでいる気配のない民家がいくつかあるだけ。
小さなお店をよく見てみる。そこは花屋のようで、店先にはカラフルな色の花々が筒に入って置かれていた。
あぁ、綺麗な花だなと思いながら、音の姿を探す。しかし何処にも、その姿は見当たらない。
風が吹き、髪がさらりと揺れた。その時もう一度、確実にチリンと音はした。だが、やはり音の姿はない。
きっとこれは、私に頑張れとでも言っているんだろう。
優しい、音色だ。
また、歩き出す。その音を忘れぬよう、こうして一枚の紙に綴ってから。




