花咲病
私の友達に、春華という名の華奢な女の子がいる。その女の子はつい先月、未知の病にかかってしまった。花咲病と仮に名付けられた、その病は、体から花が咲いてしまう異質なものだった。
春華は学校を休み、1日のほとんどを寝て過ごしていると、春華のお母さんから聞いた。花咲病は頻繁に睡魔に襲われ、そして寝ている間にどんどんと病は進行していくらしい。
「春華、体調大丈夫なの?」
「うん……たまに吐き気がするくらい、かな……」
「そっか。吐き気がしたらすぐ言ってね」
力無い笑顔を浮かべ、弱々しくお礼を言ってくれる春華。症状がだいぶ進行しているせいか、最後に会った時よりも顔色が悪い。
未知の病というのは、言い換えれば不治の病。……と春華が言っていた。春華は既に覚悟を決めているようで、私はそんな春華が少し嫌だった。なんだか、寂しくて。
「この花……可愛らしくて綺麗でしょ……?」
「うん。小さいのが可愛いし、沢山咲いてるから一層綺麗だね!」
「……ふふ、ありがとう」
顔色は悪いけど、にっこりと笑った春華を見て、少しだけ安心する。春華が優しく笑ってくれる姿は、病にかかる前と同じで。私の好きな春華の姿。
でもそれは表情だけ。春華の指先や太腿、おでこからは白い花が細かく咲き乱れている。春華に似合い、素敵で確かに綺麗なのだが……この花のせいで春華が死んでしまうことを考えたら、似合うなんて思っていられない。
「明日も学校あるでしょ……? 帰らなくて大丈夫……?」
「あっ……もう19時か。こんな時間までごめんね、帰るね!」
「……うん」
学校終わりにお見舞いに来て、長居をしてしまった。そろそろ私の家も夕ご飯の時間だし、早く帰らないとご飯抜きになってしまう。
鞄を背負って春華に別れを告げ、部屋を出ようとしたところで、急に呼び止められる。
「どうしたの?」
振り向くと目に映ったのは、今にも泣きそうな笑顔を浮かべる春華。伸ばされた手の平には、春華に咲いている花が1個乗っていた。
「この花、あげる……」
「えっ……これ、千切ったの……?」
「……この花の名前、なんて言うか知ってる……?」
「知らないなぁ、ごめん……!」
それ以上、春華は何も言葉にしなかった。なんだか申し訳無さを感じたけれど、好意を無下にすることはできない。そっと1個の花を手に取り、再度別れを告げる。
――リナリア
部屋のドアを閉めた瞬間、そんな言葉が聞こえたような気がした。聞き間違いかもしれないし、これ以上の負担を春華にかけられない。
私は大人しく、ゆっくりと帰路についた。
多分調べるの面倒だと思うのでここでネタバレを。
リナリア(姫金魚草)
花言葉:この恋に気付いて・私の恋を知って
多少意味合いが違う場合もありますが、この話ではこの意味なんだな、と寛大な心をお願いします。