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愛されていた
彼は、聞いたことのないような真剣な声で。見たこともないような真剣な表情で。
「君のことを大切にしたい」
私の目前に立ち、そう言う。こんなことを言われるのは、初めてだなぁと少しだけ興奮する。いつになく変わった雰囲気に、彼の本気度が伺えた。
君はいささか恥ずかしそうに、背後に回した手を前にした。手には大きな薔薇の花束。こんな豪華な花束を目にして、私の気分が上がらないわけがなく。
両手で口元を押さえ、思わず開いてしまった口を隠す。声は出なかった、というより、驚きで言葉を失った。私の為に、こんな花束を用意してくれる日がくるなど、夢にも思わなかった。
目頭が熱くなり、涙が溢れる。いろんな感情が、混ざりに混ざって、言葉の代わりに涙が代弁する。想いは全て、涙が語る。
「ずっと大切に、したかった」
私、こんなにも愛されていた。
「――逝くなよ」
貴方に、こんなにも愛されていた。
「勝手に逝くなよ……!!」
だから私は、涙を流した。




