泣いてしまう物語
君は、泣いてしまうような物語が好きだ。
小説や漫画、映画やドラマも、何もかも。胸が締め付けられて、泣いてしまう、そんな物語が好きだ。
君は、特に家族ものが好きだ。
ペットとの物語も切なくて好きだが、例えば、家族の誰かが癌になってしまった実話や、交通事故で突然独りきりになってしまった話が好きだ。
彼女に、何故そんな特定のものが好きなのかと聞いてみたことがある。辛くて泣いてしまう話を、わざわざ好んで読む理由は何なのかと。
実は僕の母親も、泣いてしまうような物語が好きな人だった。しかし彼女のように、そこまで特定ではない。
感動する話、思わず泣いてしまう話、と称されているものは大抵好んでいた。その理由は、泣きたいときに読むと、すぐに泣けるから、だそうだ。
だから彼女も、泣きたい時に泣くために、そんな話を読んでいるのかと思っていた。だが彼女からの答えは、世の中にはこんな人もいるのだなと、驚かされるような、不思議な答えで。
「家族が今生きていることを、有り難く思えるから私は読んでいるんだ。何より、貴方が無事に私とこうして会話をしていることが、どれだけ幸せなんだろうって、噛み締められて、好きなの」
君は泣き腫らした目で、笑うのだった。




