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秘密基地
「まだ、あったのか」
蝉の大合唱が耳を貫く、それは真夏のある日。大学生になって離れた生まれ育った地に、俺は帰ってきた。
「てっきり、誰か大人に見つかって壊されてるもんだと思ってたが」
草をかき分けて、大木の側に近付く。10年近く前、俺らがせっせと作った段ボール小屋。別名、ヒーロー秘密基地。
「懐かしいな……。ん?」
ボロボロになって破けているところが、新しい段ボールで補強されている。そして、最近発売された少年雑誌が乱雑に放置されていた。
あぁ、と胸が熱くなる。そうか、と呟きが漏れる。どこか認めたくない自分がいて、どこか嬉しい気持ちの自分がいた。
俺らの居場所だった。でもこれは、もう過去のことなんだ。
「さよなら」
同じように草をかき分け、立ち去る。もう来ることはない。ここは今、俺らの場所じゃない。これから、誰かの思い出になる場所だった。
秘密基地といえば夏のようで。季節外れですが。




