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欲しかったもの
たったひとつだけ、僕らには欲しい物があった。それは地位でも名誉でも、富でも無い。どうしようもなく欲しいもので、でも二度と手に入らないもの。
*
僕らが出会ったのは、緑の多い公園だった。滑り台の下で座り込んでいた僕に、彼女は声をかけてくれた。
噴水で水遊びや、ブランコ、シーソーなど。彼女に手を引かれて僕は、世界に色を見つけた。
何もかもつまらなかったこの世界が、何もかも楽しく思えて、輝いていた。彼女のお陰だった。
だけど僕らに足りないもの。僕らが1番に望み、どうしても手に入らないもの。
それが、僕らの“実体”。
僕は3年前。彼女は5年前に失った。お互いに、交通事故だ。
幽霊同士だからこそ仲良くできた。会話もできた。しかし幽霊同士だからこそ、これ以上の関係にはなれない。否、なることは許されない。
僕らは“実体”を求めた。生前と同じ実体を、彼女と触れ合う為に。だが無論、手に入る筈もない。
それでも僕らは、幸せだった。
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