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無
何も“無い”そうだ。
人は死ぬと、天国や地獄に行くと言われている。しかしそんなのは、遺された者、自ら命を絶つ者が作り上げた希望に過ぎない。
死んだと己が自覚した時見えるのは、何も無い。そこにあるのは『無』だけである。
その中で魂は何を行うのか。ただ彷徨うだけ。何も行わない。何も行えないのだ。
闇の空間とは言えない。だが白い空間とも言えない。色すら無く、何一つ認識できない場所。
そこで永遠と彷徨い続ける。
何も“無い”ことを、恐怖と感じるか。安心と感じるか。はたまた漸くできた居場所と感じるか。
その答えによって、死することの意味は変わるのだ。




