スイッチ
例えば、貴方がいつも使っている机の上に、全てを終わらすことのできるスイッチがあったら、貴方は押しますか? そのスイッチを押せば、自分の全てが失くなって、他大勢の全ても失くなります。
もしかして、そんな危ないもの押さないよって思いました?
いやいやまさか。一度はあるんじゃないですか。人との関係をリセットしたい、とか、人生をやり直したい、とか。
ね? こーんな思いにピッタリのスイッチ、押さないわけにはいかないじゃないですか。……なのになんで、押せないんでしょうね。
本当にこのスイッチは存在したんです。昨夜まで私の目の前にありました。だけど押せないまま、そのスイッチはどこかへいってしまいました。
私だって何度か思ったことはあるんですよ。あの時の選択を変えていたらどうなってたんだろう、いっそ全て無くなっちゃえばいいのに、なんて。
それなのに、押せなかったんです。人間の弱さなんでしょうか。私が弱かっただけでしょうか。
そもそも、押して何かは変わったのでしょうか。
押したら全て失くなって、それは私の望み通りなんです。だけど押したら、もう二度と私は私になれないんですよ。
なんかそれって、寂しくないですか。これまでの道のりがあったから私という人格ができたわけで。何かを変えてしまったら、たったそれだけで私じゃなくなってたと思います。
――あぁ、そのスイッチは今どこにあるかって?
いやいや、どこかへいってしまったって言ったじゃないですか。知りませんよ、どこだなんて。
まぁ、もしかしたら次は貴方の元に現れるかもしれませんね。そしたら貴方はスイッチを押しますか。押しませんか。
私は別にどっちでも構いませんよ。スイッチを押したなら押しただけの理由はあるのでしょう。勿論、押さずにいてくれれば嬉しいんですけどね。
さて、今日はこれで解散にしましょうか。これ、本当に本当の話かって? やだなぁ、本当の話に決まってるじゃないですか。
信じられないなら、願ってみたらどうですか。もしかしたら現れてくれるかもしれませんよ。
全てを終わらすスイッチが、ね。




