178/294
朝が来る
「知らないほうが幸せだよ」
夜を背後に、微笑む君の手は血塗れだった。
何をしてきたの。そう問うと君はそう言って、闇に姿を溶かしてしまった。
止められなかった。知りたいはずなのに、知りたくなかったのかもしれない。私は君と共に生きていたいから。
家に帰った。電気を点けて、床に横たわる。
いつもと何も変わらなかった君の微笑み。いつもと全く違った君の手の色。脳裏に焼き付いて、離れない。
何かの勘違いだった。間違いだった。そう自己暗示をして、目を瞑る。目が覚めたら、消えているに違いない。
帰ってきた君は、床に寝ている私を見て笑う。そしてお姫様抱っこでベッドまで静かに運ぶ。
それから朝、目覚めた私にまた微笑む。
「――おはよう。朝だよ」
ほら、私の思った通りだ。




