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煙草
煙草は好きじゃない。
鼻にツンときて、煙たいったらありゃしない。くしゃみは出るし、咳は出るし。
呼吸を止めて煙を吸わないようにしたって、ずっと止めておくなんてできないし。
煙草は嫌いだ。
煙草の吸殻をそこらにポイ捨てするし、それが原因で火事や爆発が起こるかもしれないなんて、まるで考慮しない。
自分が良ければ良いのか、路上喫煙する人もいる。副流煙のせいで、元気に走り回る子どもに悪影響を与えているなんて、まるで知らないふりだ。
煙草は滅んでしまえばいい。
吸えば吸うほどガンになる確率が高くなって、しかも簡単にはやめられない。そんなずるい特性で、私の大切な人を奪っていくから。
ガンになんて負けないよ、なんて歯を見せて笑った私の大切な人を、呆気なく雲の上に連れて行ってしまった。
だけど煙草は好きだ。
私の大切で、大好きなあの人が、好きだったもので。
私の大切で、大好きなあの人の、匂いだから。
だから、煙草なんて嫌いで、大嫌いで――ずっと好きだ。




