最期まで隣で
「嘘ばっかし」
そう言って、笑ってみせた。白い部屋の白いベッドに座っている彼は、得体の知れないくちゃくちゃの顔をしている。
嫌いになったから別れよう。彼はそう言った。さようなら、とも続けた。この人は馬鹿で、でもそこが愛おしくてたまらなかった。
「あのね、隠さなくていいんだよ。君に残された時間は、あとどのくらいなの?」
彼は堪えていた涙を、一気に流した。悔しくて悔しくて、堪らないといった様子で、拳を握りしめている。
私は彼の横に座って、何もない天井を見つめて、それから彼の手を包み込んだ。ぎこちなく、彼が指を絡めてくる。
「俺、あと、半年生きていられるか、いられないかだって」
子どものように泣きじゃくっている。どんな思いで胸がいっぱいになっているのか、私には知る由もないけれど。きっとそれは、私の想像を遥かに超える、大きくて複雑な思い。
「ねぇ、私のこと好き?」
「……好きだよ。大好き」
「じゃあ、別れる必要なんてないよね。最期まで……隣にいさせて」
迷子になった子どものように、不安げに頷いた。もしも私が寿命を延ばせたり、彼の病気を私に移すことができたのなら、彼はこんな思いしなくて済むのに。
泣いている彼を優しく抱き締めた。その私の何倍もの力で、彼は抱き締め返してきた。
「私、ずっと君が大好きだよ」
胸の中でまた、不安げに頷く彼。半年も経てば、この温もりが無くなってしまうのかと考えたら、胸がヒヤッとした。
だから彼に負けないように、ぎゅっと力を込める。ここから、消えてしまいませんようにと。




