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一目惚れ
一目惚れだった。
今まで、自ら誰かを好きになり、勇気を出して告白したことはなかった。いつだって僕は、誰かからされるのを待って、そのうち自分も相手を好きになれるのを待っている。
そんな僕が、一目惚れをした。
信じられなかった。その人を見るだけで、鼓動が早くなる。その人を見るだけで、頭が真っ白になる。その人を見るだけで、変に気分がおかしくなる。
まさか僕が、こんな気持ちにさせられるなんて。こんな気持ちを味わう日が来るなんて。
ポケットの中から、スマホを取り出して、カメラを起動させた。ゆっくりと、慎重に、その人にカメラを向ける。
音の出るところを親指で押さえて、ボタンを押した。小さな小さな音を立てて、その人は画面の中に記録された。
真っ白になった、眠ったままのその人は。




