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凍花
その名を、凍花と言った。
梅雨の雨に当たると、みるみると凍ってしまう花。全国に1輪、2輪あるか無いかの、希少価値が高い花だ。
私はそれを、実際に見たことがある。本当に、不思議だった。降り始めた雨と共に、ゆっくりと透明になって、氷の塊になっていく。花びらの中心から、外側へ広がるように、花弁の部分だけが冷たく凍った。
雨が凍った花弁の上を滑り落ちていく。と思うは束の間。今度は外側からゆっくりと、溶け始めてしまった。
凍るとは聞いていたけれど、溶けて無くなってしまうとは、聞いてない。なるほど、噂は噂であると実感しながら、私自身、雨に濡れていることを忘れ、じっくりと見ていた。
ぽたり、ぽたりと、雨に紛れて地面を濡らす。気付けばその花は消えていて、今にも折れそうな茎だけがそこに残っていた。
消えてしまった花のその名を、凍花と言った。




