晴れのち雨
僕が気付いたときには、彼女が隣にいた。何かにつけて僕の心配をしてくれて、困ったときはすぐ助けてくれた。彼女はまるで、お母さんのようだった。
僕は本当のお母さんのことを知らない。目が覚めたら、狭くて暗い箱の中にいた。彼女がずっと見守っていてくれたのを知るのは、それから暫くしてからだ。
だけどこの前、そんな彼女が姿を消した。夜のうちに何処かへ行ってしまったみたいで、朝起きたら居なかった。その日一日、その場でじっと待っていたけれど、彼女の声さえも聞こえなかった。
彼女が傍にいない日は新しくて、だけど心に穴が空いてしまったようだった。
それから何度か夜を迎え、朝を迎え……とある日の、黄昏時。また今日も彼女を探して歩いていた。そしたら電柱の陰に、見覚えのある姿を見つけた。
「こんなところで寝ているの?」
久々の彼女の姿に、僕は喜んで声をかける。走って駆け寄ったが、彼女は返事をしてはくれない。
「ねぇ起きて。こんなところで寝てたら寒いでしょ」
やっぱり返事はしてくれない。まさか、と悪い予感が過ぎると同時に、胸の奥がヒヤッとした気がする。震える手を、彼女の柔い脇腹へと置いた。
――冷たい。僕がいつも飲むお水よりも冷たいよ。暖めてあげないと。
隣に寝転んで、ぴったりとくっつく。彼女の冷たさが、じんわりと伝わってきた。
「あーあ」
どうしたの? と隣から聞こえたような気がした。僕は雲ひとつない、澄んだ空を見上げ、全身の力を抜く。
「今日は雨だなんて、聞いてないよ」




