運命
いつか終わりが来るものの終わりが、今来ただけさ。
いつかの冬、最愛の人はそう言って亡くなった。最期に何を言うんだと、私は泣いて怒鳴って、他の人に多大な迷惑をかけて叫び散らかしていた。呼吸の薄れゆく彼を引き止めようと、私は必死だった。
あの時は、まだ若かったのかと、しみじみ思う。今私は、最愛の人が言ったその言葉を、実感し、伝える側となってしまった。
終わりが来るものに終わりが来るのは、どうしてこうもあっさりしていて、本人が受け入れられてしまうんだろう。1番本人が嫌な筈だと信じて疑わなかったあの日。私はその時と、真逆のことを考えている。
あぁ、終わりが来るのか。たったそれだけで、じゃあ休もうか、といった気持ちになってしまう。終わらせたくないと願う気持ちは不思議と湧かなくて、失くしていた大切なものが見つかったときの、安堵感に近い。
ようやく、という程に人生に疲れていたわけではなかった。それでも、終わりが迎えにくることは、心にすっぽりとハマって、腑に落ちた。それ以外の選択肢は、無いみたいに。
それはきっと、人の運命だからなんだろうなぁ。人知れず、ぽつりと言葉を漏らした。受け入れなくてはいけないと、本能が理解しているんだろうなぁ。
あの時の彼も、こんな気持ちだったのだろうか。こんな気持ちで、終わりを迎えたのだろうか。彼に、後悔や気がかりなことは無かったのだろうか。
私の終わりは、貴方よりも早いと思っていたのに。
今、受け入れることが容易くなってから感じること。彼はきっと、毎日を大切にしていたんだということ。
私も残り僅かなベッドの上で、大切に過ごさなければならない。何もできることが無くても、皆に感謝を伝えることはできる。彼が思う存分、私に伝えてくれたそのように。
終わりは必ず来る。しかしそれがいつ来るかは、神様にしか分からないのだ。
運命というのは、なんて尊くて、脆いものなんだろう。私もそれを受け入れて、彼のように散ってしまおうと、目を閉じた。




