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日めくりカレンダー  作者: 流美
5月の日めくりカレンダー
145/294

独占欲

 吐き気がした。何に。自分に。胸の奥底から湧き出た感情が、胃の中の酸っぱい液を、上へ上へと持ち上げた。

 どうして自分というものは、こんなにも汚れているのだろうと、思わざるをえなかった。それ程までに、湧き出た感情が不必要で、無意味で、最もくだらないものだったからだ。


 私は人一倍、独占欲が強かった。恋人に対してではない。親しい人、全員に対してだ。よく会話をする女友達。よく遊びに行く女友達。よく相談に乗ってもらう男友達。よく悩みを話してくれる男友達。

 全員が全員、私に対してだけそうなのだと。全員が全員、私に対しては特別なんだろうと。決してそんなことはなく、ただの自意識過剰なだけだとは自分でも理解はしている。それでも何処かで私は、そう思ってばかりいた。


 だからその友達が、誰か他の人と話しているだとか、その友達に好きな人ができただとか。そんな話を聞いてしまうと胸がもやもやとして、言い表せないストレスに襲われる。無論、それを口にはしないが。

 よく会話するだとか、よく遊びに行くだとか。友達の少ない私にとっては、親しい友達というのは貴重であり、大切である。そのせいか否か、相手はきっと私のことを好きであろうと、思い込んでしまうのだ。


 いやいや、そんな筈は無かろうと。友達にだって好きな友達がいて、私が一番ということはありえないし、ましてや嫌われているかもしれない。重々承知しているつもりではある。しかし、やはり心の何処かでは思っている。そしてそれを自覚してしまう瞬間、何度も何度も、自分に嫌気がさすのだ。


 友達は私だけのものではない。独占したいという気持ちはある。私は他の人と話すけど、貴方はダメよ、なんて最低で身勝手なことだって思う。最低で身勝手だと分かっているから、独占欲は隠して生きていた。

 友達が恋話をすれば応援するし、友達が誰かと遊びに行くなら、楽しんできてねと声をかけるし、友達が何か悩んでいそうなら、相談できる人に相談しなよと促す。そうやって、ただただ隠して生きてきた。私のもつ感情が、どれだけ醜くて汚いのか、知っていたからだ。


 独占欲というものは、制御が効いてしまうから苦しくて仕方ない。

 最低だと理解して堪えられるから、言いたくないことを言うしかない。嘘を吐いて笑って話すしかない。私にこんな独占欲が無ければと、思ったって捨てられない。消えやしない。

 私は多分、一生これと付き合っていくのだろうと思う。どれだけ私が特別じゃないと言い聞かせても、どれだけ友達は友達だと言い聞かせても、どれだけ独占なんて不可能だと言い聞かせても、きっと私の独占欲はこれから先も残り続ける。

 せめて恋人にだけ独占欲が強ければなんとかなったかもしれないのに、親しい人全員が対象なのだから、困ったものだ。人付き合いの上手くない私には、早々友達なんてできないのに。


 いつのまにか吐き気は治まっていた。また何かの機会で、友達は独占できないと突きつけられたときに気分が悪くなるだろう。もしかしたらそれは、私への罰かもしれない。最低で身勝手な、独占欲を生んでしまった、私への。

 いつか独占欲が軽くなればいいと願う。そうすれば私はもう、そんなことでストレスに襲われなくなるし、大切な友達に対して言いたくなってしまう言葉も、思い浮かばなくなる。

 私はただ、友達の幸せを心の底から願いたい。たった、それだけが望みだ。

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