月
空を仰いだ。それと同時に、目から雫が頰へと伝う。吸い込まれそうなほど真っ暗な空には、ぽつりと寂しく、月が輝いていた。
何かあったのかい。優しく問いかけられるような気がした。いいえ、何もないわ。答えると月は、薄い雲の裏側に隠れてしまった。
自分が情けない。私はあまりにも彼に依存してしまっていて、1週間会えていないことに、過度な寂しさを感じていた。
仕事が忙しいなんて分かってる。それでもどうにか彼が時間を作ろうとしてくれているのも分かってる。でも、でも私の感情が言う事を聞かなくて、勝手に涙が出てきてしまう。
仕事お疲れ様。そろそろ残業も終わる頃かと、ラインを送った。会いたい、寂しい、と打ちかけた指を必死に止めて、既読のつかない画面を見ないように、ラインを閉じる。
来月になったら、会えるから。お出かけの約束、してるから。そう自分に言い聞かせて、どうにか我慢を繰り返す。お互い仕事がある。いつもいつも迷惑なんてかけてられない。
不意に、スマホが鳴った。ビクッと肩をはね上がらせ、落としそうになったスマホの画面を見る。ラインからの着信、彼からだった。
もしもし、と恐る恐る声をかける。彼から電話なんて滅多にない。間違えただけかもしれない、と思いながらも、心の奥底では少しだけ期待をしていた。
「…………あ、もしもし?」
数秒の間があって、彼の声が聞こえた。やっぱり間違いだったのかな、と落ち込みかけた瞬間だったから、返事をする声が裏返ってしまった。
「ごめん、いきなり。今、大丈夫だった?」
「う、うん。大丈夫!」
優しくて温かい、安心する彼の声。仕事で疲れている筈なのに、私を気遣う姿勢が、嬉しかった。目元を拭い、彼の声に全集中力を注ぐ。
「特に用は無いんだけどさ……声、聴きたくて」
そう言われた瞬間に、心臓が飛び跳ねた気がした。彼も私みたいにちょっとは寂しく思ってくれてたのかな。考えると、胸がいっぱいになって、また声が裏返ってしまった。
「私も! ……声聴きたかった」
「……ほんと? 良かった、嬉しい」
それからしばらく会話を交わす。私が先ほどラインをした時には、既に帰路についていたらしい。帰って私からのラインを見たら、無性に声が聴きたくなったって。
幸せ、だなぁ。
おやすみ、と通話を終える。会える日まで、頑張ろうとまた思えた。ふと月に目を移す。隠れてた月はまた綺麗に輝いていて、なんだか心が温まるような気がした。




