意識
揺れる車内で、スマホを弄る手を止めた。ふと周りの風景に気が惹かれて、早々と過ぎていく街並みを目に焼き付ける。道路を走る車の音が、いきなり鮮明に聴こえてきた。
いつもこんなに大きな音だっただろうか。車の音がやけに頭の中に響いてきて、不安と恐怖に駆られた。何か車に不具合があるのかもしれないと考えたら、冷や汗をかいてきた。
でも、どうせいつも通りなんだろなと考える。いつも車の音なんか聴かないし、今日はスマホに向いてた全ての意識を、いきなり外に向けたから。それだけだろう。
不思議だなぁと思う。よく、同じようなことがある。いつもは意識してないことを、いきなり意識し始めて、途端に不安と恐怖を感じるのだ。結局、いつのまにか気にしなくなってるんだけれど。
無意識って、人が生きるのに大切なんだろうなぁと考えている。
いちいち意識してたら、息をするのは苦しいし、一歩一歩進むのも時間がかかる。ご飯を食べる時もたくさんのことを意識しなきゃいけないから、なかなか食べられない。
――なんて、哲学なのかなんなのかわからないこと並べたってしょうがない。また私はふと意識的になって、消えるように無意識になる。それの繰り返しだ。毎日というのは、なんて摩訶不思議で、つまらないものなんだろう。
スマホに視線を戻した。イヤホンを取り出して、耳に取り付けた。音楽を選んでいる途中で、ふと気がつく。車の音、いつのまにか意識の外だ。
やっぱ不思議だ。私は音楽を流す。もう静かになった車の音を、無意識の中からも追い出すように。




