苺
思春期になってから、ようやく気が付いたことがある。私は苺を見ることができない。
多分、幼い頃から既に食べられなかったんだろうなと思う。ただ、その時は早々デザートに出てくるようなものじゃなかったから、今更、やっと分かった事実だ。
苺のあの、種の感じ。ぶつぶつとした表面が大嫌い。目隠しして食べさせられたことがあるけれど、美味しいと思った。だから、表面だけが駄目なのだ。
見ると心がゾワっとする。体が強張って上手く動けなくなる。頭が真っ白になって、息がか細くなる。何かの病気なのではないかと疑うほどに酷い。
最近、苺を見る機会が増えてきたせいで頭が痛い。毎度毎度、体調を突然崩すせいで周りの人に迷惑をかけているのも耐えられない。
それなのにと言うべきか、そのせいと言うべきか。あの日のことを、いきなり思い出してしまった。ずっと封印していた記憶のせいで苺が大嫌いになったと、気付いたらもう、二度と食べることは叶わない。
「ねぇ、お母さん。今のお父さんって、本当のお父さんなの?」
「えぇそうよ。いきなりどうしたの」
「私ね、すっごいいちご鼻の男の人が、身近にいたような気がしたの。お母さん、知らない?」
「……さぁ、知らないわね」
「本当に? なんだか私、幼い頃に側にいた気が……思い出せない……」
「――いたわよ。いちご鼻で、くっさい豚の父親がね。トラウマであんた、忘れてたのよ。何されたのか、何があったのか、覚えてないの?」
「覚えてないよ……喉まで出てきてるんだけど、思い出せない……ねぇ、何かあったの?」
「あんたはその男に性的虐待を繰り返されて自殺未遂を繰り返した。私はヤケになってその男を殺して、あんたに隠蔽工作を手伝ってもらった。たったそれだけのことよ。幼いあんたには、刺激が強かったみたいだけど」
「そうだ……そんな、ことが…………」
「思い出したなら、最期ね」
「まって、まってお母さん! 私、秘密にするから、お願い、このまま知らないふりするから!」
「黙りなさい。べつに大丈夫よ私は。あの父親みたいに、いなくなったら新しく作ればいいだけだからね」
「ねぇお母さんやめてお願い、嫌だこっちにこないでお母さん!!」
「お母さんはね、あんたが苺を嫌う理由、気づいてたよ」
「お母さん――!!」
0時…




