瞼の腫れ
「もっと頑張らなくちゃ」
そういって空を仰ぐ私の目からは、私の意思に反して次々に涙が溢れていく。必死に涙を止めようと目を擦るけど、なかなか止まってくれない。
「まだ、まだ頑張れるから」
自己暗示みたいにひたすら呟いて、自分に魔法をかけて。頑張れる。頑張るしかない。頑張らなくてはいけない。頑張ったつもり、だなんて嫌だから。
拭いきれなかった熱い涙は、地面に染みを作っていく。漏れそうになる嗚咽を、無理矢理堪えてうずくまる。私の心と正反対な青い空が、胸に穴をあけてしまうようで苦しかった。
「いっぱい頑張ってるよ」
不意に頭に、大きくて固い手の平が乗っかる。それは涙よりも冷たくて、でも、温かい。何故か途端に涙が更に溢れてきて、嗚咽も堪えられなくなった。
「いつも偉いね」
ゆっくりと、ゆっくりと、頭の上を往復するその手の平が心地良くて、次第に私の心も落ち着いてくる。ふー、と深呼吸ができるほどになってから、手の平の主を見上げた。
「目、腫れてる?」
「うん、腫れてる」
やっぱり、とはにかむ私。さっきまでなんで泣いてたのか、忘れてしまいそう。貴方がいるだけで私は、こんなにも心が満たされてしまう。麻薬みたいよ、貴方は。
「瞼が腫れてるのはさ、いつも頑張ってる証だよ。俺はそう思ってる」
「……なぁにそれ」
真剣な顔で言う貴方に、ついつい笑いをこぼしてしまう。泣いた後なのに、貴方との間に流れる緩やかな空気が、なんでも笑顔に変えてしまいそうで。
「ありがとうね」
「いーえ。泣くなら今度は俺の胸においで」
「ふふ、はーい」
貴方が認めてくれる限り私は、きっとまだ、頑張れる。できる気がする。
私の隣は貴方じゃなければいけないと、改めて実感した。今は私の心と同じくらいの、青い空が輝くときだった。




